各疾患には日本理学療法士協会が提唱する「理学療法ガイドライン」というものがあります。
過去の様々な研究や文献、論文から効果の有無や信頼性の高さを分類し、ガイドラインとして多くの理学療法士が作成しているもので、我々も臨床介入の参考にしています。
学生も、エビデンスのある介入をしていく必要があるので、ここでは分かりやすくエビデンスのあるもの(信頼性が高いとされているもの)をピックアップし、記載していきます。
教科書に載っていることも重要ですが、このガイドラインも重要ですのでぜひ臨床参加研修(臨床実習)の参考にしてください。
今回は身体的虚弱(廃用症候群)についてです。
自然老化を背景とした運動機能の低 下(特に sarcopenia)を由来とする生活機能障害である
【参考書】
身体的虚弱(高齢者)の疫学
- 自然老化を基とした身体機能の低下を言う
- 原疾患のない虚弱を「老年症候群」と言う
- 老化に伴うリスクを把握したうえで理学療法を実施する必要がある
身体的虚弱(高齢者)のエビデンスのある理学療法評価
身体的虚弱に対する理学療法評価で、エビデンスのあるものをピックアップしていきます。
身体的虚弱(高齢者)の対象者情報
- 基本情報
:性別、年齢、身長、体重、BMI、既往歴、入院歴、服薬、居住環境、家族構成、経済状況 - 形態情報
:骨格筋量
:骨密度
:周径
身体的虚弱(高齢者)の運動機能評価(実動作)
- 筋力
:握力、膝伸展筋力、立ち座り運動 - バランス(片足立ち,functional reach test,Berg balance scale,four square step test)
:片足立ち5秒以下にハイリスク
:BBS45点以下で転倒リスク、36点以下でハイリスク - 柔軟性
:長座体前屈37cm以上 - CR fitness
:6 分間歩行テスト - 移動・歩行
:歩行速度
:timed up & go test
身体的虚弱(高齢者)の機能評価(質問紙)
- 生活機能・生活体力
: 老研式活動能力指標(TMIG index of competence) - 認知・心理
:MMSE(mini-mental state examination) - )QOL・健康感
:SF-36(MOS short-form 36-item health survey) - 社会機能
:life-space assessment - 運動習慣
- 包括的尺度
:elderly-status assessment set(E-SAS)
身体的虚弱(高齢者)のエビデンスのある理学療法介入
身体的虚弱(高齢者)の理学療法介入(リハビリ)で有用性の認められているものをピックアップしていきます。
もちろん、ここに載っていない治療法も効果がある場合が多いですので、参考までにどうぞ。
身体的虚弱(高齢者)の運動負荷量の計算方法
- カルボーネン法
目標心拍数=(220−年齢−安静時心拍数)×運動強度(60%)+安静時心拍数
身体的虚弱(高齢者)の筋力増強(非マシン)
- セラバンド、重錘バンド、ダンベルを使用(中等度負荷)
- トレッドミル(時速3.0km/h以下)
- 自転車エルゴメーター(40~50回転/min)
- 踏み台昇降(10回×3セット)
身体的虚弱(高齢者)の筋力増強(マシン)
- 1RMの80%(最大)
- レジスタンストレーニングの実施
- サーキットトレーニングの実施
身体的虚弱(高齢者)の組み合わせ運動
- 柔軟性、バランス、筋力などの組み合わせ運動の実施
- 趣味的活動の実施
- 自発的活動の実施
身体的虚弱(高齢者)の予防
- 脳卒中、認知症、高齢による衰弱、転倒・骨折の予防
- サルコペニアの予防
- 食事・水分摂取量の確認
- 排泄の確認
ロコモーティブシンドロームの予防
運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態を 「ロコモティブシンドローム」=ロコモといいます。
- 立ち上がりテスト:両脚で40cm台から立ち上がる
立ち上がりテストの方法・カットオフはこちら≫ - 2ステップテスト:できるだけ大股で2歩歩いた距離を測る
2ステップテストの方法・カットオフはこちら≫
上記のテストは必ず行う事をおすすめします。
そしてカットオフに満たない方には以下の2つのトレーニングを実施します。
- 片脚立ち
左右とも1分間で1セット、1日3セット - スクワット
5~6回で1セット、1日3セット
身体的虚弱(高齢者)の理学療法まとめ
身体機能虚弱者は加齢をベースとするので、なかなか防げないと思いがちですが、そうではありません。
さまざまな文献により、筋力強化やバランス練習の有用性が示唆され、活動量の向上が身体虚弱の予防につながると考えられています。
つまり理学療法士が的確に介入すれば、身体虚弱に陥るまでの期間を長くすることが可能。
この期間を「健康寿命」といいます。
寝たきりになる年齢を引き延ばすことで、よりQOLの高い生活を送っていただけるよう努める必要があります。
【参考】