extension−lag(エクステンションラグ)は『他動では完全進展するものの自動では完全伸展しない膝関節の現象』のことです。
臨床でもよく起こるエクステンションラグですが、その『評価方法』『原因』『治療方法』『ADLで引き起こる問題』について徹底的にわかりやすく解説していきます。
extension−lag(エクステンションラグ)とは?
膝関節におけるextension lagとは、『自動伸展可動域が、他動伸展可動域に至らない現象』とされています。
要は、多動運動では完全伸展するのに、自動運動では完全に伸び切らない状態のことです。
extension lagがあると、
- 歩容悪化(屈曲位歩行、伸展位歩行)
- 膝関節不安定性の増大
- 易疲労感
- 活動性低下
- 階段昇降動作困難
- 変形性関節症の進行
などの問題点へとつながることがあります。
また、すでに変形性膝関節症をはじめとする骨関節疾患を患っている方に弾き起こりやすい膝の障害とも言えます。
extension−lag(エクステンションラグ)の評価
エクステンションラグの評価方法はいくつかありますが、臨床でよく使う評価方法をお伝えします。
ROM−test
ROM−testは最も一般的なエクステンションラグを発見する方法です。
【手順】
- 膝伸展可動域を他動運動で測定する
- 膝伸展可動域を自動運動で測定する
- 自動運動の方が10°以上伸びなければ陽性
quad-setting
quad-setting(クアドセッティング)はパテラセッティング(patella setting)とも呼ばれます。
【方法】
- 丸めた枕などを膝の裏に置く
- 膝の裏でタオルをしっかり押し潰す
この時、膝蓋骨の動きを観察します。
まずは他動で膝蓋骨が近位(上方)に移動することを確認してからquad-setting(クアドセッティング)を行います。
大腿四頭筋が上手く働けば、膝蓋骨は開始時の位置より上方に移動するはずです。
膝蓋骨の移動が健側に比べ減少していれば陽性です。
膝蓋骨が情報に動かない=純粋に筋力が不足しているということなので、この評価をして陽性だった場合は筋力低下や運動麻痺、廃用性萎縮を疑います。
膝蓋腱の触診
quad-setting(クアドセッティング)を行なってみて
- 大腿四頭筋の筋膨隆がある
- 膝蓋骨の近位への移動が不足している
の2つを満たしているのに、エクステンションラグがある場合は、膝蓋腱を触れてみます。
大腿四頭筋に十分な筋力があるのにエクステンションラグがある場合は、癒着や瘢痕を疑います。
最も起こりやすい部位が膝蓋腱なので、膝蓋腱を触診します。
膝蓋腱に収縮運動が起こらない(触れない)場合は、伸展張力が脛骨粗面へと伝わらない状態であると言えます。
大腿四頭筋の収縮張力が、膝蓋骨近位には伝達しているにもかかわらず、遠位部ではその張力を確認できないことを評価するものです。
extension−lag(エクステンションラグ)の原因
エクステンションラグの原因は
- 内側広筋の筋力低下
- ハムストリングスの緊張・短縮
- 腫脹・疼痛による制限
- 縫工筋・大腿筋膜張筋の緊張
- 膝蓋骨の可動性低下
- 下腿外旋運動の不良
であることが多いです。
内側広筋の筋力低下
MMTの膝伸展筋力がpoorまたはnormalの場合、エクステンションラグが起きやすいです。
特に座位でMMTの膝伸展(膝関節伸展筋のMMT3以上を測定する肢位)を測定しようとすると、大腿四頭筋が主動作筋となりますが、 膝関節完全伸展位にするには主にあ内側広筋の筋力が必要になってきます。
また、膝関節が伸展位に近づくほど下腿へのベクトルが大きくなり、必要な筋力が大きくなります。
座位で膝を完全伸展に保つには、屈伸中間位より50%も大きい筋力が必要と言われています。
完全伸展にするには、特に内側広筋の筋力が重要になってきます。
逆に言うと、MMTがいくら良くても内側広筋が弱ければエクステンションラグが発生しやすいと言うことになります。
ハムストリングスの緊張・短縮
座位でMMTの膝伸展(膝関節伸展筋のMMT3以上を測定する肢位)を測定する場合、ハムストリングスをはじめとする大腿後面筋の伸長性が必要となります。
この姿勢は、臥位でSLRを行っているのと同じ姿勢と言えます。
そう考えると、ハムストリングスの伸長性低下が、膝伸展にも影響を及ぼすのはわかりますよね。
特に人工膝関節全置換術後や膝蓋骨骨折術後早期には、膝関節伸展時にハムストリングが同時収縮し
やすく、膝関節伸展方向の運動の抵抗とな理やすいです。
リハビリテーションプロトコールにも、ハムストリングスのストレッチが組み込まれるくらいですから、膝伸展に対してハムストリングスの伸長性低下は大きな要因になりうると言えますね。
腫脹・疼痛による制限
腫張や疼痛がある場合は、膝関節伸展に伴い関節内圧が上昇することで関節包が伸張されます。
結果、関節内受容器や知覚神経が興奮し、脊髄反射によって大腿四頭筋筋活動の抑制が起こります。
これをIb抑制と言います。
腫れていたり、痛みがあったら伸ばせないし曲げられないのは当たり前のことですよね。
このような腫張や疼痛に伴う筋活動の抑制は、筋萎縮が起こって筋力低下するのとは違い、反射的に筋力が低下ことが特徴です。
理学療法士がよく『筋出力低下(筋力は十分あるけどそれをなんらかの原因で発揮できない状態)』とよく言います。
筋力が十分ある人が、前十字靭帯損傷を起こした直後に膝関節伸展筋に力が入らず、膝崩れしてしまう現象はこれです。
筋量は十分なのに反射的に抑制がかかって力が入らなくなることをGiving-way(ギビング-ウェイ)と言います。
縫工筋・大腿筋膜張筋の緊張
縫工筋や大腿筋膜張筋は、膝の屈曲作用を持ちます。
縫工筋・大腿筋膜張筋の緊張によって、エアクステンションラグが起こることもよくあります。
たとえば、変形性膝関節症でO脚(内反膝)になっている場合、下肢外側筋が過活動になります。
意外と着目ポイントから外れやすい筋なので、縫工筋・大腿筋膜張筋の緊張もエクステンションラグの原因になりうるということは、覚えておいてもいいかもしれません。
膝蓋骨の可動性低下
膝蓋骨の動きは、膝の屈伸運動に重要な役割をします。
膝蓋骨の上方(近位) 移動が制限されたり、十分に膝蓋骨が可動しないと、当然ながらエクステンションラグが生じてしまいます。
他動運動で膝関節を伸展すると、完全伸展が可能にもかかわらず、自動運動では完全伸展できない場合は、『内側広筋の筋力低下』と『膝蓋骨の可動性低下』を疑ってよいと思います。
膝蓋骨の可動性の低下は、前項で紹介した『extension−lag(エクステンションラグ)の評価』をご参照ください。
下腿外旋運動の不良
膝関節は完全伸展する際に脛骨が大腿骨に対して外旋します。
これをScrew home movementといいます。
この脛骨の回旋運動が何らかの原因で阻害されると、エクステンションラグが起こるケースがあります。
Extension lag(エクステンションラグ) がある場合には、下腿の回旋可動域についても確認することが重要です。
Extension lag(エクステンションラグ) の治療方法
エクステンションラグの治療方法は、原因を特定してから、その原因を取り除けばいいだけです。
エクステンションラグの原因は
- 内側広筋の筋力低下
- ハムストリングスの緊張・短縮
- 腫脹・疼痛による制限
- 縫工筋・大腿筋膜張筋の緊張
- 膝蓋骨の可動性低下
- 下腿外旋運動の不良
であることが多いです。
内側広筋の筋力低下に対する治療
- quad-setting(クアドセッティング)
- 神経電気刺激療法(EMS)
- SLR
ハムストリングスの緊張・短縮に対する治療
- 立位体前屈
- 長座位体前屈
- SLR
- 楔台・起立台
腫脹・疼痛による制限に対する治療
- アイシング
- マッサージ
- サポーター(圧迫)
- 温熱療法
縫工筋・大腿筋膜張筋の緊張に対する治療
- マッサージ
- ストレッチ
縫工筋のストレッチ(0:45)
大腿筋膜張筋のストレッチ(1:24)
膝蓋骨の可動性低下に対する治療
- 膝蓋骨の上下モビライゼーション
- 膝蓋下脂肪体の内側・外側へのマッサージ
- quad-setting(クアドセッティング)
下腿外旋運動の不良に対する治療
- 大腿二頭筋の筋トレ
- 縫工筋、薄筋、半腱様筋のストレッチ
- 脛骨の回旋ROM運動
extension−lag(エクステンションラグ)のADLの影響
エクステンションラグは、全屈曲位の歩行となり、歩容の悪化により疲労しやすい歩行となる。
また、屈曲位での荷重が膝関節へのストレスを増大させ、膝前面痛の原因となると言われている。
『歩行』という人間にとってADLの基本部分が阻害されるので、生活の中でかなりの制限を負うことに間違いはありません。
日常生活で、座位で膝を完全進展することは少ないと思います。
重要なのは荷重位、つまり立位で膝を完全伸展できるかどうかです。
座位でのエクステンションラグを確認するだけでなく、立位でのエクステンションラグを確認することも重要だと思います。
エクステンションラグにはさまざまな原因が考えられます。
エクステンションラグの原因を考えた上で、アプローチしていくことが重要です。