「マッサージなんてカンタンだし誰でもできるでしょ?」
「ストレッチなんて教わらなくても高校の部活でやってたし大丈夫!大丈夫!」
マッサージやストレッチは学生が初めて介入する基本の手技になりますが、このような考えでは理学療法士としてやっていけるかは疑問ですね。
ただマッサージをするだけならマッサージ師のほうが技術力は上ですし、何も考えずにストレッチをするだけなら中学・高校の体育教師でもできます。
ぼくたちがなぜ理学療法士としてマッサージとストレッチを実施するのかというと、その専門性を生かした介入が可能だからです。
この専門性を生かせなければ、マッサージやストレッチは理学療法士がやる必要はなくなってしまいますよね。
せっかく勉強したことなので、それをマッサージとストレッチに存分に生かしていきましょう。
なお、本来は理学療法士はマッサージという言葉は使えず、リラクゼーションと言います。
しかし、今回は内容を分かりやすくするためにマッサージという言葉を使っていますのでご了承ください。
【参考書】
理学療法学生なら考えたいマッサージ(リラクゼーション)の目的
理学療法士学生がマッサージをする際に以下の3つを意識したほうがいいです。
- マッサージで患者との距離を縮める
- マッサージを評価として使う
- マッサージを治療として使う
言葉でいうのはカンタンですが、実際にやってみると奥が深い。
マッサージをすることで心身共にリラックスできるので、マッサージが上手な学生は患者との距離が縮まります。
マッサージが上手くない学生は、患者からこそっと「学生じゃなくて先生がやってくれないなんか物足りないんだよね・・・」と言われることも。
マッサージは患者との信頼関係を作る1つの方法と言えます。
また、マッサージは評価にも治療にも使えます。
学生はマッサージをするときに、この3つを意識しながら介入してみましょう。
マッサージを評価・治療に使う
理学療法士がマッサージを活用する場合、評価と治療の2つの側面を持っています。
評価としての側面は、毎日マッサージをすることで患者の身体的特徴を把握し、日々の変化を追えるということ。
マッサージをすることで筋の硬さや熱感、動き、太さなどを毎日評価できていれば、すぐに違和感に気づくことができますよね。
ぼくがこれまでマッサージで気づいて問題になったことは『発熱』『骨折』『浮腫』など様々です。
見た目では分からない以上も、毎日マッサージをしていたからこそ早期発見できるんです。
治療としての側面は、マッサージで身体に器質的変化を与えられるということ。
マッサージで得られる効果は
- 除痛
- 神経の抑制
- 神経の興奮
- 筋硬結の改善
- 代謝改善
など様々です。
そのような効果を狙ってマッサージしていくのか考えていくことが理学療法士として求められるものだと思います。
技術を上げろ!マッサージの種類と使い方
マッサージの種類にはいくつかあり、患者の症状や部位によって使い分けることが必要です。
理学療法士の教科書にはあまり載っていないので、マッサージの本屋アスレティックトレーナーの参考書などから確認するといいでしょう。
【マッサージの手技】
- 軽擦法(けいさつほう):掌や指で皮膚を軽くこすっていく手技
感覚神経の促通や興奮を抑制させることに用いる - 強擦法(きょうさつほう):掌や指で皮膚を強くこすっていく手技
血液循環の向上を目的とする - 揉捏法(じゅねつほう):母指球や指などを使って揉む手技
筋の収縮を促し、代謝の向上を図る - 叩打法(とうだほう):体の表面を2hz程度の速度で叩いていく手技
神経の興奮を高めたり、筋の硬さを和らげる作用がある - 圧迫法(あっぱくほう):目的とする部位に圧迫を与えてからスッと圧を抜いていく手技
痛みや神経興奮を抑制する作用がある - 振戦法(しんせんほう):目標とする部位に振動を与える手技
神経や筋の興奮を高めるために利用する
マッサージの方法
マッサージは基本的には筋の走行に沿って実施していく。
軽擦法や 強擦法は筋線維に沿って行うことでより神経伝達や血流の向上を増加させることが可能となります。
しかし場合によっては、筋の走行を横切る『横断マッサージ』という手技も使っていきます。
横断マッサージは軟部組織の運動性の維持や、疼痛の緩和、筋スパズムの減少を目的に利用されます。
血流増加より筋の柔軟性向上や疼痛抑制を目的とするのであれば、横断マッサージが適応になるでしょう。
患者はマッサージを受けたい、理学療法士はマッサージをしたくない
最後にマッサージの本質をお伝えします。
患者はマッサージを受けたがっています。
もちろん、気持ちいいですからね。
でも僕たち理学療法士はマッサージをしたくないんです。
学生の皆さんはなぜか分かりますか?
病院でリハビリをするということは自宅復帰・社会復帰を目指すということです(慢性期などを除いて)
基本的に患者の自立した生活を促していきたいので、できればマッサージの時間は少なく、セルフエクササイズの時間を多く取りたいんです。
でもマッサージをゼロにすると患者からクレームが来ます。
このあたりのさじ加減が難しいですね。
でもくれぐれもマッサージだけやっておしまい!というような理学療法士にはならないでほしいもんですね。
筋の走行を意識したストレッチで得られる効果と目的
ストレッチは筋の走行と主動作を考えながら伸ばしておけばOKです。
ダメな例として、ハムストリングスのストレッチで、何も考えずにSLRをして満足していませんか?
ハムストリングスは大腿二頭筋と半腱、半膜様筋から成り立っています。
せっかく理学療法士がストレッチをするんだから個別に伸ばしていったほうが良いに決まってます。
ほら、MMTを思い出してください。
確かハムストリングスのMMTで下腿を内外旋させて膝を屈曲することで識別ができましたよね?
そうやってストレッチの際も筋を分けながら考えていくことが、体育教師と理学療法士の差になります。
もう一つ例を挙げると下腿三頭筋。
ストレッチ方法は足関節の背屈ですが、腓腹筋は2関節筋、ヒラメ筋は単関節筋です。
じゃあ、膝伸展位で背屈した場合と、膝屈曲位で背屈した場合では効果が異なるのも分かりますよね?
そう、膝を伸ばした状態で背屈すると腓腹筋がメインで伸び、膝を曲げた状態で背屈すればヒラメ筋がメインで伸びます。
そうやって考えていますか?
ストレッチとは奥が深いんです。
【参考書】
ストレッチは10秒伸ばせばよい
ストレッチの伸張時間は20秒以上と習ってきたと思いますが、それは間違いかもしれません。
ある研究ではストレッチの持続時間(10秒、30秒、60秒)と筋血流量の変化を調べた結果、全ての時間で筋血流量は増大したといいます。
しかも、伸張時間による差はなかったとか。
この研究のみの判断になりますが、もしかしたらストレッチは10秒で十分なのかもしれませんね。
こういった文献を読んで、日々のリハビリに役立てていくんですよ。
【参考文献:静的ストレッチングの伸長時間の違いが伸長部位の筋酸素飽和度および筋血流量に及ぼす影響】
ストレッチ後に筋力低下が起こる?
様々な文献では、ストレッチ後に筋力低下が起こるのでストレッチが否定されることもしばしば。
ある研究では、ハムストリングスにストレッチを加え、5分間安静にしてたら筋力低下を起こしたとのこと。
しかし、ストレッチ後にエクササイズをしたら筋力に優位な低下は起こらなかった、とのこと。
つまり、ストレッチをしてリハビリ終了すると筋力低下が起き、運動療法をすることで筋力低下が起こらないという研究です。
ストレッチで筋力低下を起こしてしまう理由は、間違った介入によるものが大きいのかもしれませんね。
【参考文献:ストレッチングによる筋力低下は筋収縮により解消するか?】
マッサージとストレッチを活用して効果のあるリハビリを!
今回は治療の基本となるマッサージとストレッチの話をさせていただきました。
この記事を読んで、いままで適当にマッサージとストレッチをしていたなぁ…と自戒できたらいいですね。
マッサージもストレッチも安易に考えがちですが、ちゃんと考えながら行えば立派な理学療法になります。
マッサージ師や体育教師に負けないように、理学療法士としてマッサージとストレッチを実施していきましょう。