患者さんの主訴の多くは『トイレに1人でいけるように』というのが多いです。
しかも、それは家族の主訴にも多い、という事も忘れてはいけません。
トイレさえ自立すれば自宅で介護できる、という家庭もかなり多く存在します。
【Point!】
- 患者自身のホープがトイレに一人で行きたい
- 家族からのニーズもトイレ動作の自立してほしい
- トイレさえなんとかなれば自宅介護が可能
では、そのトイレ動作を自立させるためにはどのような情報が必要で、どのような能力が必要なのでしょうか。
それを考えられていないと、いつまで経ってもオムツのままです。
あなたはオムツで排泄をしたいですか?
トイレに行けないからオムツでも仕方ない、と考えていませんか?
トイレ動作は非常に重要なADL能力の1つです。
そのトイレ動作を自立させるまでの考え方を、おさらいしていきましょう。
トイレ動作を自立させるために必要なこと
まずトイレ動作を自立するまでに必要な能力を考えます。
- 『歩行能力』
- 『バランス能力』
- 『巧緻動作』
あたりがパッと思い浮かびますよね。
しかし、それだけでは不十分です。
この『トイレ動作』という行為を細分化していかなければ、治療法および改善案は出てきません。
まずどこのトイレで自立したいのかを考えます。
病院のトイレ?自宅のトイレ?どこで自立させるの?
もちろん、両方共に自立にできれば全く問題ありません。
しかし、自宅のトイレと病院のトイレではその設置方法や広さも異なりますので、全く同じには考えられないのが現状です。
ですので、この場合は最も身近な存在である『病院のトイレを自立させる』ことを中心に実施していきます。
トイレ動作自立に向けた情報収集
トイレ動作自立に向けて必要な情報は
- トイレの種類は和式か洋式か
- ドアの形状は何か
- 手すりはどちらについているか
- ペーパーはどこに付いていているか
- 広さはどの程度か
などです。
こう考えると、トイレの形状はそこまで大きく変更できない事に気づきます。
自立できない理由がトイレ環境である場合は、環境への工夫が必要となるので、補助具を使用していくとよいでしょう。
【ドアの形状】
【▲開き戸(画像左)と引き戸(画像右)】
どちらも一長一短があります。
主に違うのは、開き戸は体を少し後方に引き、避けなくてはなりません。
しかし、最も危ないのが指はさみ。
開き戸は凄くこの事故が多いです。
【対策法】
開いたドアの隙間で指を挟んでしまうトラブルを解決するための物。
ドアの隙間に指を入れてしまい、それに気づかずドアを閉めて大ケガをするという事故防止のための補助防護用商品です。
ホームセンターでほとんど見かけない商品なので、インターネットで購入するほうが無難です。
ドアを閉めている時は目立たないのでおススメです!
【ドアノブの形状】
【▲丸形取っ手(画像左)とL字型取っ手(画像右)】
丸型取っ手は握力が落ちてきた方には不向きです。
リウマチなどの関節炎症がある方も、可能であればL字取っ手に変更したいところです。
【対策法】
ドアノブ外径:48~52mmに適応。
手に力が入らなくなってきた方におススメ。力が要らずすぐドアが開けられます。
アーム部分がシリコンで柔らかめなのですが、ぶつけたときのことを考えると柔らかい方が良いです。
粗悪品はすぐに緩んでくるので注意!
実家の両親の家が古い場合など、購入すると喜ばれますよ。
トイレまでの動線の評価
- ベッドからトイレまでの距離
- 起き上がり・立ち上がり動作
- 靴の着脱
- 歩いてor車いすでトイレに行く
- 障害物の有無
- 把持できる場所の有無
実際にトイレ動作を評価しようとすると、トイレの中の動きを見る人が多いですね。
しかし、トイレ動作は実際に患者さんが居る場所からトイレまでの移動も含まれます。
もしも患者さんがベッドにいる時間が少なく、デイルームでテレビや新聞を見ている時間が長い場合、評価するべきはデイルームからトイレまでの動線です。
この移動動線もしっかりとチェックしておきましょう。
トイレ動作自立のために必要な患者の能力
環境と移動動線をチェックできたら、今度は実際にトイレで動ける能力があるのかを評価します。
トイレ動作といっても、動きのみでなく、その患者さんの排泄能力も確認しなければなりません。
排泄能力とは
- 尿意・便意の有無
- 失敗(失禁)の有無
- 便秘やゆるい排便の有無
などです。要するに
- トイレに行きたいと思ってからトイレに移動するまで我慢できるか
- トイレに誰かが入っていても我慢できるか(ギリギリまで我慢してトイレに行っていないか)
ということを自分でコントロールできているかを排泄チェック表などで確認します。
もし失敗が多いようでしたら、時間誘導などの対策が必要です。
トイレ動作で確認すべきことは
- 方向転換はできるか
- ズボンは上げ下ろしできるのか
- 便座に座っていられるか
- ペーパーを巻き取ることができるか
- 清拭(おしりを拭く)はできるか
- 汚物処理(パット交換や水を流す・ウォシュレットの使用)はできるか
- ドアは安全に開閉できるか
- 手を洗えるか
項目数は多いですが、自分がトイレでどんな動作をしているのか考えればわかる事だと思います。
この能力が備わっていれば、比較的安全にトイレ動作は実施できるでしょう。
もし、その能力が備わっていない場合は、見守りなどの対応が必要になりますよね。
実際にトイレに行くと分かるのですが、トイレという狭い空間では行動がかなり制限されます。
その限られた空間のなかで、いかに安全にトイレ動作を実施できるかを考えなくてはいけません。
そして、忘れがちなのがペーパーホルダーの位置です。
左片麻痺の人が左にペーパーホルダーがあると、右手でリーチしますよね。
そうすると重心は麻痺側にかかってしまうため、耐え切れずに滑落する、なんて事例もあります。
ペーパーホルダーが麻痺側にある場合は、別のトイレを使用させる、先にペーパーを巻き取る、手すりを導入するなどの対応が必要です。
自宅であればホルダーの位置を変えてしまいましょう。
ネジで止まっている場合がほとんどなので、比較的簡単に変えることができます。
実際にトイレ動作をしてもらう
みんな勘違いしがちなのですが、まず患者の運動機能を評価して『トイレができるかできないか』予測を先に立てようとします。
- 麻痺の程度
- 痛みの程度
- 可動域
- 筋力
- バランス
- 立位保持時間
そして、『できない・難しい』に到達する場合が多いです。
だから立ち上がり練習や立位保持練習を入念にやって、トイレで動作できると考えられる能力が獲得できてからトイレ動作に移るのですが、それでは時間の無駄です。
まず初期評価でトイレ動作をやってしまいましょう。
そこで『できる動作と出来ない動作』を確認してしまうほうが手っ取り早いです。
そこで、自力で立てるけどステップを踏んで方向転換をせずに、そのまま流れるように移乗してしまう。
と評価できれば、方向転換動作を念入りに練習していけばいいだけです。
また、そのような状態でも見守りがれば出来そう、と判断したら、早急に病棟導入してしまった方がいいです。
『上手に』とか『姿勢を正して』なんて目標は理学療法士のエゴにすぎません。果たして患者は『上手にトイレに行きたい』と願っているのでしょうか?
たぶん違います。
患者は『なるべく早くオムツを外してトイレに行きたい』と願っているはずです。
だったらその願いをかなえてあげるのがPTであると考えます。
いつまでもオムツでいいんですか?
私だったら、1日だってオムツでしたくはありません。
そのような患者の気持ちも汲めずに
- 『上手く移乗できないから…』
- 『ドアの開け閉めが不安だから…』
という理由でトイレ動作の導入に足踏みをしている理学療法士は考えを改めましょう。
今ある残存能力で安全にトイレに行ける工夫をすべきです。
トイレさえできれば在宅復帰は見えてくる!
トイレ動作は患者さんが最も求める動作の1つです。
その重要性をしっかりと理解しましょう。
【トイレ評価の3ステップ】
- まずトイレという環境を評価する
- そのトイレに行くまでの動線を評価する
- トイレ内での動きを評価する
この3ステップを必ず踏んでいきましょう。
- 上手に
- 安全に
- 一人で
トイレをするにあたり、上記3項目はできるに越したことはありませんが、必須項目ではありません。
もしかしたらそこに患者さんとリハスタッフの思い違いがあるかもしれないことを念頭に置いてください。
- 誰かの助けを借りながらトイレに行く
- おむつを当てられ、スタッフや家族が交換する
果たしてどちらのほうがADLとQOLの向上が見込めるでしょうか。
例えお風呂や食事が一人で出来なくても、トイレさえできれば自宅で看る事ができる、という方はたくさんいます。
これは今後も大きな問題になりかねないので、是非もう一度よく考えてみて下さい。