肩の痛みは、腰痛や膝痛と同じように、多くの人が経験する身近な症状です。
スポーツをしている人だけでなく、仕事や家事などの日常生活を送るなかでも起こり、腕を上げる、服を着る、髪を洗うといった何気ない動作が難しくなることもあります。
肩が痛いといっても、原因は一つではありません。
肩関節の周囲にある筋肉や腱、滑液包、関節包など、さまざまな組織が痛みに関係するため、痛む場所や動作、発症した経緯などを確認しながら原因を考える必要があります。
原因によって適切な対処法も異なるため、痛みの特徴を整理することが大切です。
この記事では、肩の痛みでよく話題になる
- 四十肩、五十肩
- 上腕二頭筋長頭腱の障害
- 肩峰下滑液包炎
を取り上げ、主な症状や評価の考え方、対処法を理学療法士の学生にもわかりやすいように解説します。
なお、ここで紹介する特徴やテストだけで病名を確定することはできません。
肩の痛みには腱板断裂など、似た症状を示す疾患もあります。強い痛みや外傷後の痛み、急に腕が上がらなくなった場合などは、自己判断せず医療機関で評価を受けてください。
肩が痛いときに確認したいポイント

肩の痛みを評価するときは、痛む場所だけで判断せず、いつから痛いのか、どの動作で痛むのか、安静にしていても痛いのか、関節の動きが制限されているのかなどを確認します。
こうした情報を組み合わせることで、どの組織に問題が起きている可能性があるかを考えやすくなります。
チェック項目1:四十肩・五十肩などを考える手がかり
- 首から肩、腕にかけて痛みが広がっている
- 腕を上げる動作が難しく、動かせる範囲が狭くなっている
- 服を着る、髪を洗う、背中に手を回す動作で困っている
- 40~50歳代で、はっきりしたけががないのに痛みが始まった
このような特徴が複数ある場合は、いわゆる四十肩・五十肩(肩関節周囲炎、凍結肩などと呼ばれる状態を含む)を考える手がかりになります。
ただし、年齢や症状だけで診断できるわけではなく、腱板断裂などとの区別が必要です。
チェック項目2:上腕二頭筋長頭腱の障害を考える手がかり
- 肩の前側に痛みがある
- 物を持ち上げたり、腕を前に上げたりすると痛む
- ドアノブを回す、スポーツで投げるなどの動作で痛みが出る
- 肩の前側に痛みがあり、特定の動作で症状が強くなる
このような場合は、上腕二頭筋長頭腱の炎症や腱障害などが考えられます。
夜間痛が出ることもありますが、これらの特徴だけで原因を断定することはできません。
チェック項目3:肩峰下滑液包炎などを考える手がかり
- 腕を横や前から上げると肩に痛みが出る
- 肩の外側や肩峰周辺を押すと痛みがある
- 腕を動かす途中で痛みが強くなる
- 腕の重さだけでも痛みを感じることがある
このような症状では、肩峰下滑液包や腱板など、肩の上部にある組織が関係している可能性があります。
肩峰下滑液包炎とインピンジメント関連の症状は似ることがあり、症状だけで区別するのは困難です。
上記はあくまで症状を整理するための目安です。チェック項目に当てはまるからといって、特定の疾患と決まるわけではありません。
四十肩・五十肩の症状と対処法
四十肩・五十肩は、肩の痛みと動かしにくさが生じる状態を指す一般的な呼び方です。
発症する年齢によって四十肩、五十肩と呼び分けられますが、基本的には年齢だけで異なる病気というわけではありません。
はっきりしたけがをきっかけとせず、徐々に痛みが現れることもあります。
肩関節の周囲にある関節包などの組織に炎症や変化が起こり、痛みや可動域制限につながると考えられています。
典型的には片側の肩に症状が出て、腕を上げる動作だけでなく、背中に手を回す動作などでも制限を感じることがあります。
四十肩・五十肩で困りやすい日常生活動作
四十肩・五十肩では、日常生活動作(ADL)や手段的日常生活動作(IADL)に支障が出ることがあります。
ADLは着替えや入浴など基本的な生活動作を指し、IADLは買い物や家事など、より複雑な生活動作を指します。
具体的には
- 服を着たり脱いだりするときに肩が痛む
- 夜に痛みが強くなって眠りにくい
- 高い場所の物に手が届かない
- 髪を結んだり洗ったりしにくい
- 背中を洗う動作が難しい
といった困りごとが生じます。
肩の痛みは腕だけの問題にとどまらず、生活全体に影響することがあるため、痛みの強さだけでなく、どの動作に支障が出ているかも評価することが重要です。
痛む場所と評価の考え方
痛みは肩の外側から上腕にかけて感じられることがありますが、痛む場所だけで四十肩・五十肩と判断することはできません。
腕を横から上げると痛む一方、動かし方を変えると比較的上げやすい場合もあります。
ただし、動かし方による違いには個人差があり、それだけで診断を確定することはできません。
特に注意したいのが腱板断裂です。
腱板は肩関節を安定させ、腕を動かす働きを担う筋肉と腱のまとまりです。
腱板断裂でも肩の痛みや腕の上げにくさが生じるため、四十肩・五十肩と似た症状を示すことがあります。
外傷後に急に腕が上がらなくなった場合や、腕を上げる途中で強い痛みや明らかな筋力低下がある場合は、早めに医療機関で評価を受けましょう。
理学療法士が評価する際には、問診に加えて、肩関節の自動運動と他動運動の可動域、痛みが出る角度、筋力、肩甲骨の動きなどを確認します。
必要に応じて医師による画像検査などの結果も踏まえ、症状の原因を考えていきます。
四十肩・五十肩の改善に向けた考え方
痛みが強い時期は、痛みを誘発する動作を減らし、肩に過度な負担がかからないようにします。
腕を無理に上げたり、痛みを我慢して強く伸ばしたりすると、症状が悪化することがあるため注意が必要です。
日常生活で腕を支える必要がある場合には、医師や理学療法士に相談し、三角巾やアームスリングなどを一時的に使用することもあります。
ただし、長期間動かさないと関節が硬くなる可能性があるため、自己判断で固定を続けるのは避けましょう。
痛みが落ち着いてきたら、症状や可動域に合わせて運動療法を取り入れます。
理学療法士による関節可動域運動や、自宅で行うセルフエクササイズなどを組み合わせ、無理のない範囲で肩を動かしていきます。
肩関節だけでなく、肩甲骨や胸郭、頸部の動きも腕の挙上に関係するため、必要に応じてそれらの動きも確認します。
代表的な運動には、腕の力を抜いて体幹を前傾させ、腕を小さく揺らすコッドマン体操(振り子運動)などがあります。

痛みの強さや病期によって適した運動は異なるため、どの時期でも同じ運動を行えばよいわけではありません。
運動中や運動後に痛みが強くなる場合は中止し、方法や負荷を見直しましょう。
回復に伴い、洗濯物を干す、頭を洗う、服を着るといった実際の生活動作を想定した練習も役立ちます。
ホットパックなどの物理療法が用いられることもありますが、効果には個人差があり、運動療法や生活上の工夫と組み合わせて検討します。
上腕二頭筋長頭腱の障害の症状と評価
上腕二頭筋長頭腱は、力こぶを作る上腕二頭筋につながる腱の一つで、肩関節の前方を通り、上腕骨の結節間溝という溝に沿って走行しています。

この腱に炎症や変性などの問題が生じると、肩の前側を中心に痛みが出ることがあります。
以前から上腕二頭筋長頭腱炎と呼ばれてきましたが、実際には炎症だけでなく、さまざまな腱障害が関係する場合があります。
腕を前に上げる、物を持ち上げる、投球やラケット競技などで腕を使うと痛みが出ることがあります。
エプロンのひもを結ぶなど、肩を動かす日常生活動作で困る場合もあり、利き腕に症状が出ると生活への影響が大きくなることがあります。
安静時にも鈍い痛みが続く場合がありますが、症状の出方には個人差があります。
姿勢や肩甲骨、鎖骨、上腕骨の位置関係が肩の動きに影響することはあります。
ただし、猫背だから上腕二頭筋長頭腱の障害が起こると単純に決めつけることはできません。
姿勢だけでなく、活動量、反復動作、肩関節の可動域や筋力などを含めて評価することが大切です。
上腕二頭筋長頭腱の評価に用いられるテスト
上腕二頭筋長頭腱の障害を評価する際には、ヤーガソンテストやスピードテストなどが用いられることがあります。
ただし、いずれも単独で診断を確定できる検査ではなく、問診や他の身体所見と合わせて解釈します。
ヤーガソンテスト

一般的には、肘を約90度曲げた状態で、前腕を回外させたり肩を外旋させたりする動きに検者が抵抗を加えます。
その際に肩の前面、特に結節間溝付近に痛みが再現されるかを確認します。検査では無理に強い力を加えず、痛みの程度を確認しながら実施する必要があります。
スピードテスト

肘を伸ばし、前腕を回外させた姿勢で、肩を前方へ上げる動きに検者が抵抗を加えます。
肩の前面に痛みが再現されるかを確認します。痛みが出た場合でも上腕二頭筋長頭腱だけが原因とは限らないため、他の評価結果と合わせて判断します。
上腕二頭筋長頭腱の障害への対処法
痛みが強い時期には、原因となっている可能性のある反復動作や、痛みを強く誘発する動作を減らし、肩にかかる負担を調整します。
冷却によって痛みが和らぐ場合もありますが、すべてのケースで冷却が必要というわけではありません。
鎮痛薬や外用薬を使用するかどうかは、既往歴や服用中の薬なども関係するため、医師や薬剤師に相談してください。
痛みが落ち着いてきたら、症状に応じて肩関節の動きや筋機能を改善する運動を検討します。
例えば、テーブルの上に手を置き、タオルなどを敷いて摩擦を減らしながら、腕を前後にゆっくり滑らせる方法(テーブルサディング運動)があります。

腕の重さをテーブルに預けることで負担を調整しやすくなりますが、痛みが強くなる場合は無理に続けず、運動の範囲や方法を見直してください。
運動後に痛みが残る場合は、負荷が大きすぎる可能性があります。痛みがあるからといって、運動後に必ず鎮痛薬を使用すればよいわけではありません。
薬の使用は医師や薬剤師の指示に従い、運動量は症状の変化を確認しながら調整しましょう。
肩峰下滑液包炎の症状と評価
肩峰下滑液包炎は、肩峰の下にある滑液包に炎症などが生じ、肩の痛みにつながる状態です。
滑液包は、筋肉や腱などの組織同士が動く際の摩擦を減らすための袋状の組織で、肩関節の滑らかな動きを助けています。
負荷が繰り返しかかったり、周囲の組織に問題が生じたりすると、痛みが出ることがあります。
肩峰下滑液包の症状は、腱板の障害やインピンジメント関連の肩痛と似ることがあります。
インピンジメントとは、腕を上げる動作などで肩の周囲の組織に負荷がかかり、痛みが生じる状態を説明する際に使われる言葉です。
肩峰や烏口肩峰靱帯の下を通る腱板などの組織が関係することがありますが、肩の痛みは複数の要因が重なっている場合もあります。
痛みは肩の外側に出ることがあり、腕を上げる途中や、腕の重さがかかるときに強くなる場合があります。
奥のほうに響くような鈍い痛みを訴えることもありますが、痛みの性質だけで肩峰下滑液包炎と判断することはできません。
痛む場所と評価の考え方
肩峰周辺や三角筋の上部付近に圧痛がみられることがあります。
ただし、圧痛の場所だけでは原因となる組織を特定できません。
上腕二頭筋長頭腱や腱板などの問題でも肩の前面や外側に痛みが出るため、痛む位置、痛みが出る動作、可動域、筋力などを合わせて評価します。
インピンジメント関連の症状を確認するために、肩を動かして痛みが再現されるかをみるテストが用いられることもあります。

肩インピンジメントテスト
ただし、テストの方法には複数の種類があり、痛みが出たことやクリック音が聞こえたことだけで診断が確定するわけではありません。
検査は医療者が適切な方法で実施し、他の所見と合わせて判断します。
肩峰下滑液包炎などが疑われる場合の対処法
痛みが強い時期には、腕を高く上げる動作や、痛みを誘発する姿勢を一時的に減らし、肩にかかる負担を調整します。
例えば、長時間にわたって腕を上げ続ける作業や、肩に重いバッグを掛ける動作などで痛みが強くなる場合は、方法を変えたり休憩を入れたりするとよいでしょう。
ただし、すべての人に同じ動作制限が必要なわけではなく、症状に応じた調整が重要です。
薬物療法や注射などが検討される場合もありますが、治療方法は痛みの原因や症状、既往歴などによって異なります。
湿布や飲み薬の効果を一律に判断することはできないため、自己判断で薬を選ぶのではなく、医師や薬剤師に相談しましょう。
痛みが落ち着いている場合は、症状に合わせて負担の少ない範囲から肩を動かすことを検討します。
例えば、胸より低い位置にあるテーブルに手を置き、肘を軽く曲げた状態から、痛みが強くならない範囲で手を前方へ滑らせる方法があります。

肩の位置や手の向きによって負担は変わるため、痛みを我慢して続けることは避け、必要に応じて理学療法士に動作を確認してもらいましょう。
肩の痛みが出始めたときは、無理をせず負担を調整する
スポーツ外傷などの急な痛みでは、まず痛みを強くする動作を避け、患部に無理な負担をかけないことが大切です。
急性期の応急処置として、RICE処置という考え方が知られています。
RICEは、Rest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(挙上)の頭文字です。
ただし、RICE処置はすべての肩の痛みにそのまま当てはまるものではありません。
特に肩は圧迫や挙上の方法が難しく、無理に固定したり、包帯などで強く圧迫したりすると別の問題が生じる可能性があります。
肩の痛みに対しては、痛みの原因や状態を確認したうえで、必要な対応を選ぶことが重要です。
Rest:安静
安静とは、必ずしも一日中寝ていることではありません。
痛みを強くする動作や負荷を一時的に減らし、肩が楽な位置を保つことを意味します。
腕を胸の前で支えると楽になる場合もありますが、三角巾などを使用する際は、必要性や使用期間について医療者に相談しましょう。
長期間にわたり肩を動かさないと、関節が硬くなることがあるため注意が必要です。
Ice:冷却
冷却は、痛みを一時的に和らげる目的で用いられることがあります。
保冷剤などを使用する場合はタオルで包み、皮膚に直接当てないようにしましょう。
冷やして痛みが増す場合や、皮膚の感覚が鈍い場合は中止してください。
冷却を行うかどうかは、痛みの状態や本人の反応に合わせて判断します。
Compression:圧迫
圧迫は、主に四肢の外傷で腫れを抑える目的などで用いられる方法です。
肩は構造上、自己判断で強く圧迫することが難しく、圧迫すればよいというものではありません。
肩の痛みに対して無理に包帯を強く巻くことは避け、必要な場合は医療者の指示に従ってください。
Elevation:挙上
挙上は、患部を心臓より高い位置に保つことで腫れを抑える目的で用いられる方法です。
ただし、肩の痛みでは腕を持ち上げること自体が痛みを強める場合があります。痛みを我慢して腕を高く上げる必要はなく、楽な姿勢を優先しましょう。
発症直後に強い痛みがある場合は、重い荷物を持つ、腕を大きくひねる、無理に高い場所へ手を伸ばすといった動作を控え、必要に応じて医療機関を受診してください。
着替えの際は、頭からかぶる服よりも前開きの服を選ぶなど、日常生活で肩にかかる負担を減らす工夫も役立ちます。
夜間に痛みが強くて眠れない場合は、痛む側を上にして横向きになり、腕の下に枕や畳んだタオルを置くと楽になることがあります。
ただし、姿勢によって痛みが増す場合は無理に続けず、自分が楽に過ごせる姿勢を探してください。
肩の痛みに合った運動や治療を選ぼう
肩の痛みがあると、早く治そうとしてストレッチや筋力トレーニングを始めたくなるかもしれません。
しかし、どのような肩の痛みにも効果がある万能な体操はありません。
痛みが強い時期に無理に動かすと症状が悪化することがあり、反対に、必要以上に動かさない状態が続くと関節が硬くなることもあります。
大切なのは、痛みの原因や状態を確認し、その時期に合った方法を選ぶことです。
理学療法士の学生であれば、痛む場所だけで判断するのではなく、発症時期、外傷の有無、痛みが出る動作、自動運動と他動運動の違い、筋力、日常生活への影響などを整理して考えることが重要になります。評価結果に応じて、運動の種類や負荷、生活上の注意点を調整します。
今回紹介した特徴に当てはまらない場合や、痛みが長引いている場合も、整形外科などの医療機関で相談しましょう。
強い痛み、外傷後に腕が上がらない状態、急な筋力低下、発熱や赤みを伴う痛み、胸の痛みや息苦しさを伴う症状などがある場合は、早急な医療評価が必要です。
さいごに:肩は使いすぎにも、動かさなさすぎにも注意が必要
肩の痛みには、スポーツなどで同じ動作を繰り返すことによる負担だけでなく、活動量が少ない生活や、長時間同じ姿勢を続けることなど、さまざまな要因が関係します。
ただし、肩の痛みを単純に使いすぎ、使わなさすぎだけで説明することはできず、組織の状態や既往歴、生活環境などを含めて考える必要があります。
デスクワークでは、キーボードやマウスを使う時間が長くなり、肩や体幹を動かす機会が少なくなることがあります。
長時間同じ姿勢を続けないように適度に休憩を取り、無理のない範囲で体を動かす習慣をつけることは、日常生活の負担を調整するうえで役立ちます。
また、姿勢だけを無理に正そうとするのではなく、自分にとって楽に保てる姿勢を見つけ、肩や肩甲骨、体幹を適度に動かすことも大切です。
すでに痛みがある場合は、痛みを我慢して運動を続けず、症状に合った運動や治療について医師や理学療法士に相談してください。
肩の痛みは、原因によって適切な対応が変わります。痛む場所や動作だけで自己判断せず、必要な評価を受けたうえで、無理のない方法で改善を目指しましょう。


