腱板断裂は、肩関節障害でよく見る疾患であり、その評価や治療法はよく知っておいた方が良いです。
この記事では、腱板断裂と診断された患者に対するリハビリの評価・治療手順をお伝えします。
肩関節腱板断裂の識別
肩関節腱板断裂は、肩関節周囲炎(五十肩)と識別しないといけません。
肩関節周囲炎との違いを知り、患者がどちらの疾患の可能性があるかチェックしましょう。
どちらの肩が痛むか?
まず問診で、患者の利き腕がどちらか確認してください。
利き腕の場合は腱板断裂を疑います。
利き腕では無いほうだったら五十肩を疑います。
腱板断裂は、利き腕での受傷がとても多いんです。
痛みの部位はどこか?
患者に痛む場所を1本の指で押さえて貰ってください。
肩の外側面または後面を押さえた場合、腱板断裂の疑いがあります。
肩の前面を押さえた場合は五十肩(上腕二頭筋長頭腱炎など)が疑われます。
肩の外転で痛みが出るか?
肩関節を外転してみてください。
運動初期は痛みなく、60度くらいから痛みが出るようなら腱板断裂を疑います。
運動初期から痛むようなら、五十肩を疑います。
筋力低下があるか?
筋力低下があれば腱板断裂を疑います。
例えば、人に手伝ってもらい、手のひらを下に向けた状態で腕を体の横に水平な位置まで上げてもらいます。
その位置で腕を離してもらい、保持できなかったりゆっくりと腕を降ろせなかった場合は腱板断裂っぽいです。
逆に、肩関節周囲炎は痛みは伴いますが、そのまま保持できます。
運動をしているか?
運動習慣がある場合、腱板断裂を疑います。
つまり、受傷機転としてバレーボールや、高い場所の荷物をとるなどの誘因があれば腱板断裂っぽいです。
しかし、特に運動をしてないうえに誘因が無ければ五十肩を疑います。
肩関節腱板断裂のリハビリの評価
ROM-test
ROM-testは関節可動域評価のことですが、可動範囲を確認するだけではありません。
可動域に制限があるかどうかはもちろんですが、可動方向によって痛みが出るかも確認します。
主に回旋筋腱版の主要動作を確認してください。
- 肩甲下筋:内旋運動
- 棘上筋:外転・挙上運動
- 棘下筋:外旋運動
- 小円筋:外旋運動
もちろん内外旋は1st・2nd・3rdポジションも確認してくださいね。
痛みの評価
痛みの部位、出現する動作、夜間痛などを確認します。
- 起居動作
- 結髪動作
- 食事動作(箸を口に運ぶときが痛みやすい)
- 寝返り
- 着衣
などで痛みが出やすいです。
画像評価
MRI検査は腱板損傷に対する画像診断で最も有用です。
どの腱板が損傷しているのかが分かりますが、慣れていないと判別は難しいので詳しい人と一緒に見ることをおすすめします。
レントゲンは損傷具合を確認することはできませんが、腱板断裂があるひとは肩峰と上腕骨頭の間が狭くなることがあります。
整形外科テスト
各種整形外科テストで、損傷具合を判別してください。
- 棘上筋(SSP)テスト
- 棘下筋(IPS)テスト
- 肩甲下筋(SSC)テスト
- ドロップアームサイン
- Neerテスト
- Hawkinsテスト
- ペインフルアークサイン
肩関節腱板断裂の識別方法とリハビリの治療
初期の安静
腱板断裂初期は、安静にしておく必要があります。
保護的な姿勢(三角巾で固定させるような姿勢で、やや外転位)にし、肩の負担を避けます。
痛みに関しては、アイシングが効果的で、痛みの出現する動作を避けるようにします。
可動域運動
肩甲骨回し
肩関節を動かさずに肩甲骨だけを大きく回すエクササイズです。
ただ肩甲骨を前から後ろ、または後から前とぐるぐる回すだけ。
この時、腕は回さないように注意してください。
肩甲骨内外転運動
背臥位になり、肩甲骨を引き寄せていったり、前方に持ち上げていく運動です。
ストレッチポールを使う場合もありますが、バランスが取れずに患側に落下してしまうと大変なことになるので、使う場合は慎重にしましょう。
筋力強化運動
痛みのないローテーターカフ運動
腱板断裂は、断裂している腱板以外の筋肉を鍛えるべきですが、痛みがあるようならやめておきます。
- 肩甲下筋:内旋運動
- 棘上筋:外転・挙上運動
- 棘下筋:外旋運動
- 小円筋:外旋運動
これらを鍛えることで、断裂した腱の負担を少なくします。
等尺性収縮運動
腱板断裂が悪化するリスクのある運動は遠心性収縮です。
逆に負担の少ない運動は等尺性収縮なので、関節を動かさないで抵抗する力と同じ力でトレーニングすると安全に運動ができます。
プロプリオセプティブトレーニング
プロプリオセプション(自己受容感覚)は、自分自身の身体が空間のどこにあるのか、その位置を把握できる身体能力です。
その身体の位置関係を理解するトレーニングが有用とされています。
バランスボード、ボスボール、ヨガストレッチなどを取り入れることで、安定性を高めながら、バランス能力を強化できます。
例えば、テーブルにボールを置いて、それを手のひらで転がしていく運動などがあります。
IADL指導
IADLとは、買物・電話・外出など ADL よりも高い自立した日常生活をおくる能力のこと。
つまりその人の実際に日常生活に即した活動(趣味やスポーツなど)の動作を指導します。
もちろん、簡単なものから段階的に実施していき、肩に負担の少ない動作を獲得していく事が目標となります。
姿勢・アライメント修正
肩関節腱板断裂では、かたに負担のかかる姿勢は行わないほうがいいです。
たとえば、肩をダラッと下垂した姿勢や、肩関節内転・伸展させた姿勢などです。
基本的には軽度屈曲、軽度外転、免荷ポジションが基本となります。
病状理解(エデュケーション)
肩関節腱板断裂の病状や症状を患者本人に理解させることで、症状の再発予防につながります。
しっかりと病態をお伝えし、適切な生活を送って頂けるように配慮しましょう。
腱板断裂の禁忌
肩関節の牽引
腱板断裂は、腱板が部分的に破れている状態です。
そんな状態で引っ張ると、さらに腱板は断裂してしまいます。
回旋筋腱版の作用を思い出してください。
- 肩甲下筋:内旋運動
- 棘上筋:外転・挙上運動
- 棘下筋:外旋運動
- 小円筋:外旋運動
損傷している筋が肩甲下筋なら、禁忌は「外旋方向のストレッチ」となります。
※動かしてはいけないというわけではなく、ストレッチをかけてはいけないという意味です。
コッドマン体操
コッドマン体操は手をぶらぶらと振り子のように動かす運動です。
「腱板断裂」は肩甲骨と上腕骨を固定できなくなっている状態なので、その状態で「振り子運動」をすると重力と遠心力で腱板の負担が増大します。
「ひっぱる」とか「牽引する」のは、腱板をストレッチするのと同じなので行ってはいけません。
まとめ
肩関節腱盤断裂のリハビリは、早期から徐々に運動量を増やし、痛みを避けつつ関節の可動性と筋力を回復させることが重要です。
適切なエクササイズやストレッチを継続的に行い、姿勢の改善や日常生活での適切な動作を意識することも大切です。
また、リハビリの効果を最大限に引き出すために、患者さん自身の意識や取り組みも欠かせません。
リハビリを通じて、肩関節の機能を回復し、日常生活やスポーツなどでの制限なく活動できるようになることを目指しましょう。