さまざまな理学療法評価を実施し、いよいよ問題点の抽出に取り掛かろうとしたとき、困った経験はありませんか?
評価結果を並べてみたものの、問題点が多すぎたり、反対に何を問題点として挙げればよいのかわからなくなったりすることがあります。
理学療法の臨床実習では、ROMやMMT、感覚検査、歩行分析など、さまざまな評価を実施します。しかし、評価を実施できることと、そこから適切な問題点を抽出できることは別の話。
たとえば、次のような評価結果が出たとしましょう。
- SLR:健側80度、患側60度
この結果は問題でしょうか?
SLRの参考可動域は一般的に90度程度とされているため、両側ともに制限があると判断するのでしょうか。
それとも、健側と比較して患側の可動域が小さいため、患側だけを問題点として挙げるのでしょうか。
あるいは、日常生活動作(ADL)に支障が出ていなければ、問題として扱う必要はないのでしょうか。
このように判断に迷ってしまう場合、問題点抽出の考え方を十分に理解できていない可能性があります。
問題点を抽出するときは、評価項目の左右差や正常値との差だけを見るのでは不十分です。大切なのは、その評価結果が患者さんの動作や日常生活にどのような影響を与えているのかを考えることです。
今回は、理学療法評価から本当の問題点を抽出する方法について、具体例を交えながら解説していきます。
本当に問題点?理学療法評価から問題点をうまく抽出する方法

炎症や疼痛、関節可動域制限、筋力低下などは、動作を阻害する要因になることがあります。
しかし、評価結果に異常があったからといって、すべてを問題点として挙げてよいのでしょうか?
たとえば、大腿骨頸部骨折を受傷し、人工骨頭置換術を実施した患者さんを担当したとします。
術後は疼痛や炎症反応があり、歩行はもちろん、立ち上がりや移乗動作にも介助が必要な状態だったとしましょう。
このとき、問題点として次のような項目を挙げたとします。
- 術創部の疼痛
- 大腿外側面の炎症
- 股関節の可動域制限
確かに、これらは評価によって確認できた身体機能上の問題です。
しかし、ここで少し考えてみてください。
手術によって皮膚や筋組織などに侵襲が加わっているため、術後に疼痛や炎症反応が生じること自体は、身体の反応として想定されるものです。
もちろん、疼痛や炎症の程度、経過によっては注意が必要ですし、感染や合併症などを疑う所見があれば適切な対応が求められます。
ただし、術後に痛みがあるという事実だけで、それを最優先の問題点として扱ってよいとは限りません。
大切なのは、その疼痛や炎症が患者さんの動作や生活にどのような影響を与えているのかを考えることです。
たとえば、疼痛によって患側下肢への荷重が不十分になり、立ち上がりや歩行が困難になっているのであれば、疼痛は動作を阻害する重要な要因になるでしょう。
このように、評価結果をそのまま問題点にするのではなく、患者さんの動作や生活との関係から考えることが大切なのです。
問題点を抽出するには患者さんの生活を考えること
大腿骨頸部骨折の患者さんで、股関節屈曲可動域が60度から100度まで改善したとしましょう。
60度しか曲がらなかった股関節が100度まで改善したのであれば、大きな変化ですよね。
日常生活でも、ある程度の動作が可能になると考えられます。
では、股関節屈曲100度まで改善すれば、問題は解決したといえるのでしょうか?
ここで、その患者さんの自宅環境を考えてみましょう。
もしも自宅のトイレが和式トイレだったらどうでしょうか。
和式トイレを使用するには、深くしゃがみ込む必要があるため、股関節屈曲100度では十分な動作が難しい可能性があります。
つまり、同じ股関節屈曲100度という評価結果でも、患者さんの生活環境によって意味合いが変わってくるのです。
ある患者さんにとっては100度まで曲がれば十分な可動域かもしれませんが、別の患者さんにとっては、まだ改善が必要な状態といえるでしょう。
問題点は評価結果だけで判断するのではなく、患者さんがどのような生活を送っているのかを踏まえて考える必要があります。
理学療法士は、単純に正常値へ近づけることだけを目標にするのではありません。患者さんが退院後にどのような生活を送りたいのか、その生活を実現するためにどのような能力が必要なのかを考えることが重要です。
例題:屋外歩行で500m自立できる患者さんの活動範囲は?
ここで、もう少し具体的な例を考えてみましょう。
ある患者さんが屋外を500m、自立して歩行できると評価されたとします。
この結果を見て、家から500m離れたスーパーまで歩いて買い物に行けると判断してよいでしょうか?
答えは、必ずしもそうとは限りません。
考えてほしいのは、患者さんが500mの連続歩行を行えるという点です。
500m歩けるということは、500m先まで移動できる能力があるということですが、スーパーに到着した後のことも考えなければなりません。
スーパーに着いた時点で疲労が強くなってしまえば、商品を選んだり、買い物かごを持って店内を移動したりすることが難しくなるかもしれません。
さらに、帰宅するためには、もう一度500m歩かなければなりません。
これでは、スーパーまで歩いて行けたとしても、買い物を済ませて自宅に戻るという一連の活動を安全に行えるとは限りませんよね。
この場合、単に500m歩行が自立しているという評価だけでは、患者さんの生活に必要な移動能力を十分に把握できていないことになります。
ここで重要なのは、患者さんの歩行能力そのものではなく、その歩行能力が実際の生活範囲や活動内容に適応しているかどうかという視点です。
仮に患者さんの歩行距離を500mから800mに延ばせたとしても、生活上必要な移動距離や活動量を満たせなければ、まだ問題が残っていると考えられます。
もっといえば、痛みなく5km走れる患者さんの職業がマラソン選手だった場合、5km走れることだけで十分とはいえません。
競技を続けるためには、42.195kmを走る能力が求められるからです。
このように、同じ身体機能や動作能力でも、患者さんの生活背景や役割によって問題点の捉え方は変わってきます。
理学療法評価では、数値の良し悪しだけに注目するのではなく、その能力が患者さんの生活にどの程度適応しているのかを考えてみましょう。
その問題点で大丈夫?臨床実習のレポートをうまく書くコツ

理学療法学生が臨床実習で問題点を抽出するとき、もう一つ考えてほしいことがあります。
それは、その問題点は本当に改善を目指す必要があるものなのか、そして現実的に介入できるものなのかという視点です。
たとえば、問題点として筋力低下を挙げたとしましょう。
しかし、担当している患者さんの疾患が筋ジストロフィーだったらどうでしょうか?
筋ジストロフィーは進行性の筋力低下を特徴とする疾患です。そのため、筋力低下を単純に問題点として挙げ、筋力を改善させることだけを目標にするのは適切とは限りません。
同じように、アルツハイマー型認知症の患者さんに対して、HDS-Rの低下を問題点として挙げた場合はどうでしょうか?
認知機能の低下を問題として捉えること自体は間違いではありません。
しかし、その評価結果を改善させることだけを治療目標にしてしまうと、患者さんの生活に必要な支援や介入が見えにくくなる可能性があります。
問題点として挙げるのであれば、その問題に対してどのような理学療法を実施するのか、改善によって患者さんの生活がどのように変わるのかまで考える必要があります。
もちろん、進行性疾患だからといって筋力評価や認知機能評価が不要になるわけではありません。身体機能や認知機能の状態を把握し、残存能力を生かした動作方法や環境調整を検討することも理学療法士の重要な役割です。
大切なのは、評価結果を改善することだけにこだわらず、患者さんが今できることを生かしながら、生活上の課題を解決する方法を考えることですね。
患者さんはあなたのモルモットではない。現実的な問題点を考えよう
問題点を抽出するときは、現実的に改善や対処が可能なものを考える必要があります。
たとえば、次のような問題点を挙げたとしましょう。
- 99歳で廃用症候群を呈している男性に対して、体力低下
- 指が欠損している患者さんに対して、握力低下
確かに、評価結果だけを見れば問題点として挙げたくなるかもしれません。
しかし、ここで考えてほしいのは、その問題点に対してどのような治療プログラムを立案するのかということです。
99歳の患者さんに対して、若い人と同じように体力を向上させることを目標にする必要があるでしょうか?
指が欠損している患者さんに対して、握力を正常値まで改善させることを目標にするのは適切でしょうか?
もちろん、年齢だけを理由に身体機能の改善を諦める必要はありませんし、指の欠損があっても残存機能を活用して動作能力を高めることは可能です。
ただし、患者さんの身体状況や疾患、生活背景を無視した目標設定では、現実的な治療につながりません。
患者さんは、自分の身体の状態を受け入れながら、これからの生活をどう送っていくかを考えています。
理学療法士を目指す学生も、患者さんの現状をしっかりと理解したうえで、実現可能な目標や治療プログラムを考えていきましょう。
私の失敗談:患者さんに根拠のないことを言ってしまった
ここで、私が学生時代の臨床実習で経験した失敗談を紹介します。
当時、私は脳梗塞によって左片麻痺を呈した患者さんを担当していました。
その患者さんは支柱付き長下肢装具を使用し、なんとか歩行が可能な状態でした。
ある日の介入中、患者さんからこんな質問をされました。
「これ(運動麻痺)って良くなりますかねぇ」
それに対して、私は次のように答えてしまったのです。
「はい、治ります」
患者さんをがっかりさせたくないという気持ちがありましたし、自分自身を奮い立たせるためにも、前向きな言葉をかけたいと思っていました。
ところが、その発言について学校の先生と臨床実習指導者から厳しく注意を受けることになります。
理由は、根拠もなく治ると断言してはいけないということでした。
当時の私は、患者さんに希望を持ってもらいたいという気持ちが先行しており、自分の発言が患者さんにどのような影響を与えるのかまで考えられていませんでした。
もし患者さんが私の言葉を信じて、運動麻痺が完全に回復すると期待していたらどうでしょうか。
その後、思うように回復しなかった場合、患者さんは大きく落胆してしまうかもしれません。
実際には、その患者さんの運動麻痺は徐々に改善していきましたが、発症前と同じ状態に戻ったわけではありませんでした。
この経験から学んだのは、自分が改善させたいと思っていることと、医学的に改善が期待できることには違いがあるという点です。
患者さんから「運動麻痺は良くなりますか?」と質問された場合、学生の立場であれば、無理に断言する必要はありません。
たとえば、
「今後どの程度改善するかは、現時点でははっきりとは分かりません。ただ、現在の身体の状態を評価しながら、少しでも動きやすくなるようにリハビリを進めていきましょう」
といった伝え方が考えられます。
また、文献や医学的な根拠に基づいて説明できる場合は、その情報を伝えることも大切です。
大切なのは、患者さんに希望を持ってもらうことと、根拠のない期待を抱かせることを混同しないことです。
理学療法士は、患者さんの身体機能や予後について、医学的な根拠と実際の評価結果を踏まえて説明する必要があります。
学生のうちから、自分の発言に責任を持つ意識を身につけておきたいですね。
まとめ:理学療法の問題点抽出は患者さんの生活から考えよう

理学療法評価から問題点を抽出しようと思えば、いくらでも項目を挙げることができます。
ROM制限、筋力低下、疼痛、感覚障害、バランス能力の低下など、評価結果を並べていけば多くの問題点が見つかるでしょう。
しかし、それらが本当に患者さんの生活にとって重要な問題なのか、改めて考える必要があります。
問題点を抽出するときは、次の2つの視点を意識してみてください。
- 患者さんの生活に対して、現在の身体機能や動作能力は適応しているか
- その問題点に対して、現実的な改善や対処が可能か
この2つを意識するだけでも、評価結果をそのまま問題点として並べるのではなく、患者さんの生活に必要な問題点を考えやすくなると思います。
さらに、抽出した問題点の中から、どの問題を優先的に改善する必要があるのかを考え、治療プログラムに落とし込んでいきましょう。
理学療法士の仕事は、単純に筋力や関節可動域を改善させることだけではありません。
患者さんが望む生活を実現するために、何が必要なのかを考え、身体機能や動作能力、生活環境を総合的に捉えることが大切です。
臨床実習で問題点の抽出に悩んだときは、評価結果だけを見るのではなく、患者さんの生活に目を向けてみてください。
きっと、本当に取り組むべき問題点が見えてくるはずです。
問題点抽出から治療プログラムを立案する方法はこちらの記事を参考にしてください。



