理学療法士は、歩き方を観察することで、その人の身体的な特徴や動作の問題点を分析する力が求められます。
これは患者さんだけに当てはまる話ではなく、街中を歩いている健常者を観察するときにも同じことが言えるでしょう。
健常者であっても、歩き方には人それぞれのクセがあり、筋力や関節可動域、姿勢、身体の使い方などが影響している可能性があります。
普段から歩き方に注目し、どのような特徴があるのか、その背景には何が考えられるのかを意識してみてください。
日頃から観察する習慣をつけておくと、臨床現場で患者さんの歩行を評価するときにも役立つはずです。
ただし、歩き方の特徴だけで筋力低下や関節の問題などを断定することはできません。観察した内容を手がかりに、必要な評価へとつなげていくことが大切です。
歩き方のクセを見抜くためのポイント
では、実際にどのような歩き方に注目するとよいのでしょうか。
ここでは、日常生活でも見かけることの多い歩き方を例に挙げながら、それぞれの特徴と考えられる原因について確認していきます。
紹介する特徴は、多くの人に見られる可能性がありますが、すべての人に当てはまるわけではありません。あくまでも観察の手がかりとして捉え、ほかの身体所見や動作の特徴と合わせて考えていきましょう。
靴底を擦りながら歩く人

歩行中に足先が十分に持ち上がらず、靴底を擦るように歩いている人がいます。
このような歩き方では、足部が床面に接触しないように確保する高さが不足している可能性があります。
この高さはフットクリアランスと呼ばれ、歩行中に足先が床に引っかからないようにするために重要な要素です。
フットクリアランスが不足する原因には、股関節や膝関節、足関節を動かす筋力の低下、関節可動域の制限、足関節の背屈が十分にできないことなどが考えられます。
歩き方を観察する際は、足先が床に近づいていないか、つま先が引っかかりそうになっていないかを確認してみてください。
また、靴底の摩耗具合も参考になります。
靴底が部分的にすり減っている場合は、足の接地の仕方や歩行時の荷重のかかり方に特徴があるかもしれません。
ただし、靴底の減り方は靴の形状や使用状況にも左右されるため、摩耗だけで原因を判断せず、実際の歩行を観察することが大切です。
体幹を左右に大きく振る人、または体幹の動きが少ない人

歩行中は、骨盤や体幹が適度に回旋し、腕の振りなども組み合わさることで、身体全体の動きが調整されています。
ところが、歩くたびに体幹を左右へ大きく振っている人もいます。
このような歩き方では、股関節周囲の筋力低下や、骨盤を安定させる機能の低下などが関係している可能性があります。
股関節外転筋の筋力が低下している場合には、立脚側の骨盤を安定させにくくなり、体幹を傾けて代償することもあるため、骨盤の動きと合わせて観察してみましょう。
反対に、体幹や骨盤の回旋が少なく、身体全体が硬い印象を受ける歩き方もあります。
この場合は、体幹や股関節の可動性が低下している可能性に加え、腰痛などによって動きを制限していることも考えられます。
ただし、体幹の動きが少ないからといって、必ずしも身体が硬いとは限りません。歩行速度や歩幅、痛みの有無なども確認しながら、その人にとって自然な歩き方なのかを考えることが重要です。
猫背で歩く人

背中が丸まり、体幹が前傾した姿勢で歩いている人もいます。
このような歩き方を観察したときは、胸椎や股関節の可動域、体幹の姿勢保持能力、頸部や肩関節の動きなどを確認してみましょう。
例えば、胸椎の伸展可動域が制限されていたり、肩甲帯周囲の動きが小さくなっていたりすると、上半身を起こした姿勢を保ちにくい場合があります。
また、首や肩の痛み、肩関節の可動域制限などが姿勢に影響している可能性も考えられるでしょう。
加えて、気分や心理的な状態が歩行姿勢に影響することもあります。
気分が落ち込んでいるときには、うつむきがちになったり、歩行速度が低下したりすることがあります。
ただし、猫背で歩いているという理由だけで、うつ傾向があると判断することはできません。
姿勢には身体的な要因だけでなく、生活習慣や疲労なども関係するため、複数の視点から捉える必要があります。
お腹を前方に突き出して歩く人

お腹を前方に突き出すような姿勢で歩いている人も、観察のポイントになります。
このような歩き方では、骨盤の前傾や腰椎の前弯が大きくなっている可能性があります。
また、体幹や股関節周囲の筋機能、姿勢を保持するための運動制御などが関係していることも考えられるでしょう。
腹筋群の筋力や体幹の安定性を評価することも大切ですが、お腹が前に出ているという見た目だけで、腹筋の筋力低下があると断定することはできません。
骨盤や腰椎の位置、股関節の動きなどを含めて確認していきましょう。
また、歩行時に体幹を後方へ反らすような動きが目立つ場合には、大殿筋歩行と呼ばれる歩行パターンも考えられます。
大殿筋歩行では、股関節伸展筋の機能低下などを補うため、立脚初期に体幹を後方へ傾ける特徴が見られることがあります。
単にお腹が前に出ている状態とは異なるため、体幹の動く方向やタイミング、股関節の動きにも注目してみてください。
歩行観察では見た目だけで判断しないことが大切

歩き方のクセを観察すると、筋力や関節可動域、姿勢、身体の使い方などについて、さまざまな可能性を考えることができます。
理学療法士にとって大切なのは、歩き方の特徴を見つけることだけではありません。
その特徴がどのような要因によって生じているのか、ほかの動作にも共通する問題があるのかを考え、適切な評価につなげることです。
今回紹介した歩き方も、ひとつの特徴だけで原因を決めつけるのではなく、歩行周期のどの場面で起きているのか、左右差はあるのか、痛みや筋力低下はないかなどを確認することで、より詳しい分析ができるようになります。
普段から人の歩き方を観察し、気づいた特徴について自分なりに考える習慣をつけてみてください。
こうした積み重ねが、臨床現場での歩行分析の力を高めることにつながるでしょう。
腕の振りも、歩行を分析するうえで注目したいポイントのひとつです。
アームスイングの役割や、腕を振って歩くことのメリットについても確認してみましょう。

