TKA(人口膝関節置換術)は、重度の変形性膝関節症(OA)や、膝痛に適応します。
TKAをすることで、患者のQOL(生活における質)を改善することを目的とします。
痛み止め(鎮痛剤)や注射、装具などによる保存治療が有効でなく、関節の機能が損なわれている時には人工膝関節置換術は適応します。
人工膝関節置換術の適応疾患
- 変形性膝関節症
- 特発性膝骨壊死
- 関節リウマチ
TKA(人工膝関節全置換術)後のリハビリの流れ(プロトコール)
TKA(人工膝関節全置換術)後のリハビリの流れ(プロトコール)を説明します。
術後当日
【安静度】
- ベッド上臥床
- 完全免荷
【運動】
- 患部以外の関節運動
- 足関節底背屈運動
術後翌日
【安静度】
- 車いす乗車(足挙上車いす)
- 全荷重OK(痛みのない範囲で)
- 状態に応じて歩行器・松葉杖の練習
- 術創部には触れない
【運動】
- 膝関節運動開始(60度程度)
- CPM(持続的他動運動)60度程度
- SLR運動
- 足関節底背屈運動
- 平行棒内荷重練習
- 平行棒内歩行練習
- 歩行器練習
術後2日目
【安静度】
- 車いす乗車(スタンダード車いす)
- 全荷重OK(痛みのない範囲で)
- 歩行器・松葉杖のADL導入(見守り)
【運動】
- 膝関節運動(90度程度)
- CPM(持続的他動運動)90度程度
- SLR運動
- 足関節底背屈運動
- 平行棒内荷重練習
- 平行棒内歩行練習
- 杖歩行練習
術後5日目
【安静度】
- 歩行器・松葉杖の導入(自立)
- 術創部に触れてOK
【運動】
- 膝関節運動(110度程度)
- CPM(持続的他動運動)110度程度
- SLR運動
- 足関節底背屈運動
- 杖歩行練習
- F/H歩行練習
以降は患者の状態に合わせてリハビリ介入をしていきます。
TKA(人工膝関節全置換術)後のリハビリの評価
- 痛みの有無
安静時・動作時・荷重時 - 周径
膝蓋骨上縁で、きまった時間に毎日測定 - 関節可動域
痛みの出ない範囲で毎日計測 - 荷重量
患側の安楽荷重と努力荷重を計測 - 起居動作
ベッド→車いすへの以上 - 歩行動作
早期にADL導入、どんな歩行補助具が適当か検討
TKAに重要なリハビリ評価
TKA術後は、凄い速さで患者の機能が回復していきます。
モタモタしていると、評価が機能回復についていけなくなってしまうので、素早く的確に評価していきます。
関節可動域は、術後21日までに120度を目指します。
毎日計測することで、今の進捗状況を確認しましょう。
周径も毎日計測します。
医師がカルテを確認する時に、周径値があると非常に助かるそうです。
荷重量は早期に全荷重を獲得したいので、こちらも毎日計測します。
まず体重を測り、健側に体重計と同じ厚さの台を置き、患側に体重計を置きます。
安楽肢位での患側の荷重量を測り、今度は意図的に何キロまで荷重できるか測ります。
この荷重量によって、歩行補助具を選択できます。
- 体重の50~70%の荷重
ピックアップ歩行器 - 体重の70~85%の荷重
キャスター付き歩行器 - 体重の90%の荷重
T字杖
TKA(人工膝関節全置換術)後のリハビリの治療プログラム
除痛
痛みは術後早期に軽減していきます。
術創部痛もそうですが、手術侵襲を受けた筋肉痛、浮腫による痛みなどがあります。
足部から下腿にかけてマッサージをし、浮腫を軽減・深部静脈血栓症の予防を行います。
弾性ストッキングや、弾性包帯などを利用するのも手です(多くの場合、病棟で処方しています。包帯に巻き方を覚えておいてください。)
アイシングを行うのも良いのですが、除痛にはそれほど効果がないという文献も多いです。
セルフエクササイズ
セルフエクササイズは術直後から行います。
特に足関節底背屈運動と腹筋の運動を行う事がすすめられています。
手術2日目からは、SLR運動、パテラセッティング、膝関節屈伸運動を開始します。
ある程度下肢運動が出来るようになったら、自室での歩行練習やハーフスクワット、つま先立ちなどを取り入れてください。
関節可動域練習
関節可動域は21日以内に120度または術前と同じレベルまで目指します。
21日間以降では瘢痕化が進み、可動域改善はあまり見込めないという研究があります。
だからなるべく早く可動域練習は実施すべきです。
目標可動域
- 術後翌日:60度
- 術後2日:80度
- 術後5日:100度
- 術後14日:120度
関節可動域訓練は、徒手的なROM訓練と同時に、病室ベッド上でCPM(continuous passive motion:膝屈伸器械)を用いて行います。
こちらも病棟で看護師が行ってくるはず。
筋力強化練習
TKAの場合、初期から筋力強化を行います。
強化する筋は、膝周囲に捕らわれず多面的に行ってください。
- パテラセッティング
2Wは実施する(拘縮予防も兼ねて) - SLR
- 腹筋強化
- ハーフスクワット
- つま先立ち
- ブリッジex
- クラムシェル
- サイドレイズ
など、膝に痛みの出ない範囲で行うことが望ましいとされています。
歩行練習
歩行訓練は、術後翌日または2日目から平行棒内歩行から開始します。
患者によっては、2日目は術後せん妄・痛み止めによる吐き気などがある場合があるので十分配慮しながら行います。
術後5日目を目途に、T字杖歩行訓練を開始しますが、こちらも年齢た身体機能に応じておこなってください。
自宅復帰を目指すのであれば、家屋状況を確認し、段差や階段、入浴などを考えてリハビリテーションをしましょう。
リハビリ期間
TKA術後患者のリハビリ期間は2週間~3週間です。
それまでに杖歩行またはF/H歩行を獲得し、自宅に帰れる能力を獲得します。
外来リハビリテーション
外来リハビリでは、目標とした関節可動域を獲得し、IADLで不便がなくなるまで実施します。
当面の目標は6か月程度継続し、運動は毎日行うことが望ましいです。
基本的に散歩は毎日欠かさず行うようにしたほうが良いと思います。
TKA(人工関節置換術)後の生活で注意すべきこと
仕事・学業復帰
職場復帰・学業復帰は、特に問題なく復帰しても問題ありません。
ただし、通勤・通学で長距離を歩いたり、階段昇降が必要な場合は注意が必要です。
また、仕事が大工などの力仕事の場合は、しばらく(2~3か月)休んだほうがいいです。
スポーツ・部活動復帰
術後のスポーツ復帰は、膝の状態を見ながら始めていきます。
目安は3か月頃です。
強烈な剪断力のかかるストップアンドゴーの運動は避け、軽いランニングやストレッチを行いつつ実施します。
再受傷をしないためにも、転倒には十分注意します。
TKA(人工関節置換術)のリハビリまとめ
TKA(人工膝関節置換術)のリハビリは、手術後の機能回復を促進するための運動療法が主軸となります。
- 筋力トレーニング
- 可動域の向上
- 歩行訓練
- 動作指導
上記を中心としたプログラムを、手術後すぐから始めます。
徐々に負荷を増やしつつ、痛みのコントロールをして日常生活動作の獲得を目指します。
リハビリの目的は、膝関節の機能を回復し、患者の生活の質を向上させることです。
患者の状態に合わせた個別のプログラムを組み、継続的なリハビリを実施していきましょう。