「担当患者がきまったから評価をしよう!…と思ったけど、この評価何の意味があるんだろう?」
「評価が終わった!でもこの結果から何がわかるんだろう?」
理学療法士の臨床実習で最も大切なことが『評価』です。
学校でも一生懸命勉強し、実習に向けて実技もたくさんしてきましたね。
でもそこで疑問が浮かびませんか?
「この評価で患者のなにがわかるんだろう?」
評価の測定方法ばかりに気を取られ、その評価の目的についてあまり考えられていない方も多いのではないでしょうか。
実際、評価が終わってその報告を受けたときにぼくが
「で、どう思う?」
と聞くと黙ってしまう学生も多いです。
評価は実施して終わりではありません。
そこから何を考え、どんな予想をし、どんなプランを立てるか?までがセットになります。
今回は、理学療法学生が最初に行うであろう評価を3つ解説していきます。
- ROM-t(range-of-motion test):関節可動域評価
- MMT(manual-muscle-test):筋力評価
- 周径(circumference):周径評価
さて、あなたはこの評価を上手く使いこなせていますか?
この評価から問題点を抽出できていますか?
【参考書】
順番に説明していきますので、気になった項目はもくじで選べば一気に移動できます。
臨床実習でのROM-t(range-of-motion test)の目的と活用法
ROM-t(以下ROM測定とします)の目的は以下の通りです。
【ROM測定の目的】
- 関節可動域制限の阻害因子を見つける
- 障害の程度を把握する
- 治療法への活用
- 治療効果の判定
実施方法は『日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会』が定めている方法で実施してください。
ROM測定の阻害因子
ROM測定で基本となるのは『参考可動域』で、その参考可動域より多すぎても少なすぎても障害の疑いがあると考えます。
ただし、その人の生活歴や職業などからも加味してほしいところ。
世の中には極端に体が柔らかかったり硬い人がいますが、それが本当に障害によるものなのか?本当に異常なのか?を考えて評価していきましょう。
- 運動習慣のある人は体が柔らかい傾向にある
- 筋肉質な人は体が硬い傾向にある
- 男性は股関節の内旋が硬い傾向にある
- 女性は股関節の外旋が硬い傾向にある
こういったことは頭の片隅にでも入れておいてください。
だから参考可動域に縛られず、基本的には健側と比べて患側の可動域はどうか?という評価をするといいと思います。
患者にとって正常は、教科書の参考可動域でなく健側ですから。
ROM測定の制限因子となるものは以下の4つです。
【ROM測定の制限因子】
- 骨(骨性)
- 筋、腱(軟部組織性)
- 靭帯、関節包(関節包性)
- 痛み
これらの制限因子を特定し、対策を考えていきます。
どうやって感じ取るか?というとエンドフィール(関節運動最終域)で確認します。
【エンドフィールの感じ方】
- 骨(骨性):骨と骨が「コツン」とあたる手ごたえ
- 筋、腱(軟部組織性):関節の周囲で抵抗を感じる
- 靭帯、関節包(関節包性):関節の中で抵抗を感じる
- 痛み:最終域に行くまでに痛みが出て動かせない
この感覚は健常者同士でも可能なので、ぜひ動かしあいをして確認してください。
ROM測定結果の活用法
ROM測定の結果から考えられることは次の通りです。
【ROM測定結果から考えられること】
- 障害度合いを測る
- 予後予測をする
- 効果判定をする
- ADLに投影させる
健側に比べ、患側のROM低下(もしくは過剰)があった場合、その障害度合いが予測できます。
- どの部位がどの程度短縮しているのか?
- 正常(健側)と同等になるか?
- 介入前後で可動域は上がったか?
- この制限があるとADL上問題になるか?
例えば、股関節屈曲が90度しか曲がらなかったとします。
すると、90度では患者の生活の何が阻害されてしまうのか?を考えます。
- 椅子から立てない
- 自転車に乗れない
- 仕事ができない
など。
でも逆に言えば、股関節90度しか曲がらなくても日常生活で特に問題が無いのであれば、股関節が90度しか曲がらないのは問題点には上がらないかもしれません。
だから関節可動域の数字だけ見てもダメ。
ROM測定結果を上手く使いこなすには
- 患者の生活像
- 患者のHOPE
- その他の評価との兼ね合い
と一緒に検討し、統合と解釈して問題点を挙げていくのがROM測定の活用法です。
臨床実習でのMMT(manual-muscle-test)の目的と活用法
MMTの目的は以下の通りです。
【MMTの目的】
- 個々の筋力の強さ
- 神経障害の有無
- ADL活動への投影
徒手筋力検査なので筋力の評価は当然ですが、神経支配による筋出力の評価(末梢神経障害では神経節に沿った筋力低下が起こる)や、日常生活活動(MMT2では困難なADLがある)の評価に使われます。
MMTの評価の方法と注意点
MMTは0から5の6段階で評価されます。
しかし、各段階の中間的な筋力であると判断した場合、3+などと記載します。
このあたりは、新徒手筋力検査法の最初のページに載ってますので、良く読んでおいてください。
評価実施の注意点として6つのことに注意しましょう。
【MMT実施の注意点】
- 検査前に十分な説明を行う
- 体重を乗せず、抵抗は一定に行う
- 体位変換を少なくする
- 検査する箇所はできるだけ露出する
- 見せかけの筋力に惑わされない
- ROM測定の後に行う
特に見せかけの筋力に惑わされないのは重要す。
特に下肢の筋力はかなり強く、中殿筋や大殿筋は、段階4でも徒手抵抗では太刀打ちできません。
段階5と段階4を見誤らないようにしましょう。
また、MMTはROM測定の後に実施してください。
段階3では重力に抗して最大可動域動かせると説明があります。
段階3を測定するには、対象者の最大可動域が何度なのか知っておかなければならないということですよね。
その為に、MMTはROM測定より後に実施することが望ましいでしょう。
MMTの評価結果の活用方法
MMTの評価は6段階で段階3(重力に抗し最大可動域を動かせる)が基本となります。
その数値の使い方は様々で、段階3でもOKの場合や段階4でもNGの場合など様々。
例えば、腹筋や内転筋は段階3でも問題なく生活している人はいます。
ぼくたちだって腹筋は段階3くらいかもしれません。
MMTは段階が低いからダメだ、というわけでなく日常生活に筋力低下が阻害因子として表れているか?がポイントとなります。
- 〇:この動作ができないのはこの筋が段階3だからじゃないか?
- ✕:この筋が段階3だとどんなことができなくなっちゃうんだろう?
MMTは筋力の強弱を計るだけの評価なので、それだけで疾患やADLを判断できません。
ROM測定と同様に、その他の評価とMMTを統合と解釈し、問題点を挙げていくのが大切です。
もっと言えば、筋力が無くても何らかの方法で動作を出来るようにするのも僕たちの役目です。
大腿四頭筋の筋力低下があり、膝折れが起こってしまうなら短下肢装具を付ければいいじゃないですか。
筋力が低い=悪いではなく、筋力が低い=鍛える?代償する?そのままでいい?と考えることが重要です。
おばあちゃんの腹筋が2でもべつにいいですよね。5も要らないですよね。
でも腹筋が弱くて咳が出せなくて誤嚥のリスクがあるなら腹筋は鍛えたいですよね。
いろいろ考えていかなければなりません。
臨床実習での周径検査の目的と活用法
周径は体の各部分の太さを計る評価であり、各部位の太さを計る理由は以下の3つです。
【周径をする理由】
- 筋線維の太さを比較する
- 浮腫、水腫、炎症反応の判定
- 廃用症候群の判定材料
太さを計ることで筋量を計ることができるのですが、実際は脂肪なども含まれるので絶対的な指針とはなりません。
あくまで補助的な評価と位置付けてください。
例えば、このような感じに使います。
- 膝伸展のMMTが左右共に段階4だったが、若干左のほうが弱いように感じた。だから周径を計ってみたら、左の大腿周径は5mm細かったので、左右差があると考えられる
- 膝に触れたら熱感があり、患側の方が健側より太い気がする。実際に図ると、患側のほうが20mmも太く、熱感もあることから腫脹と考えられる
- MMTが3から4になった。周径も、以前より10mm太くなったため、筋線維が太くなり筋力が上がったと考えられる
周径評価の測り方
ぼくが学生の頃は、5mm刻みで計るように言われていましたが、それでは測定誤差が生じてしまいます。
今はどうか分かりませんが、ぼくが周径測定を学生に指導するときは1mm刻みで計ることを推奨しています。
周径の測り方でのポイントは2つ。
- 測定部位にメジャーを巻き当て、少し強めに絞る。
- ゆっくりとメジャーを持つ手を緩め、測定皮膚の弾力に任せて緩ませる
このように計れば、強く締めすぎたりたるませすぎたりといったミスを減らすことができるんです。
上肢の形態測定ですが、学生の動画があったので参考までにどうぞ
周径結果の活用方法
周径をすることで筋線維の太さを数値化できるが、信頼性は低い。
甲斐らの理学療法学によると、脂肪組織や軟部組織の影響が大きいため、あくまで補助的な位置づけとされています。
しかし、周径は浮腫の治療判定に有効な手段とされています。
リンパ浮腫診療ガイドラインにも、浮腫に対する治療の効果判定に周径を使用することが記載されています。
あとは、サルコペニアの判断基準(下腿周径30cm未満)や、廃用症候群による筋委縮の進行評価などに活用できます。
つまり、周径はそれ自体で確定診断するのでなく、様々な評価と組み合わせて考察するためのひとつの材料として用いられることが多いんです。
- 術後は40cmあった足の太さが38cmになった、腫脹が引いてきたと思われる
- 膝伸展のMMTが左右共に段階4だったが、若干左のほうが弱いように感じた。だから周径を計ってみたら、左の大腿周径は5mm細かったので、左右差があると考えられる
- MMTが3から4になった。周径も、以前より10mm太くなったため、筋線維が太くなり筋力が上がったと考えられる
ROM,MMT,周径検査は組み合わせて問題点抽出をしていく
今回はROM測定、MMT、周径評価のお話をしてきましたが、どれもそれ単体ではほとんど意味をなさない(というか信頼性が低い)評価となります。
その信頼性をどう積み重ねていくかというと、ほかの評価結果との統合と解釈が必要。
今回紹介したROM測定、MMT、周径評価以外にも様々な評価項目があります。
それらを組み合わせ、加味してアセスメントし、問題点抽出に役立ててください。
評価をする大きな理由は2つあります。
- 評価項目を組み合わせ問題点抽出をする
- 問題点を狩事前するプログラムを実施した後の効果判定をする
これはどの評価でも目的は同じです。
評価結果をここで見るのでなく広い視野で見れば、きっと何か発見できるはずです。
評価をしたら必要になってくるのがカットオフ。
こちらの記事では、臨床実習でよく使う評価のカットオフをまとめています。
ROMやMMTの評価が終わったら、次は姿勢観察評価に移りましょう。