「患者に対する問題点がなんなのか分からなくて抽出が難しい」
「自分の出した問題点がなんとなくしっくりこない、本当の問題は何なんだろう?」
問題点抽出まで来た学生さんはようやく臨床実習の半分くらいまで来たと言ってもいいいです。
でもこの問題点抽出も学生を苦しめる1つの項目であることは間違いない。
もちろん、今までの評価の過不足もあるでしょうし、そもそも評価が上手くいっていないのかもしれない。
そして出来上がった評価をICFに落とし込んで統合と解釈をするんだけど、これがまた難しい!
と嘆きのみなさん。
今回は問題点抽出をどのようにしていくか?というお話をできるだけ分かりやすく説明していきます。
問題点抽出は、問題点の本質が分かっていればそんなに難しいことではありません。
難しいのは「問題の本質をとらえる事」ですので、頑張ってください。
【参考書】
【問題点抽出の方法①】患者のHOPEから考える
スムーズな情報収集と対象者情報を書くコツ【理学療法士の実習・レジュメ】≫で少しお話をしましたが、患者の情報収集が評価の基本になります。
情報収集で患者のHOPEを聞いていると思うので、そのHOPE=問題点の基本と考えて差し支えありません。
しかし、患者がなぜそのHOPEを伝えてきたのかをしっかり考えないと、全く斜め上の問題点抽出になりかねないのでご注意を。
「家に帰りたい」というHOPEに対し「とにかく早く帰りたい」のか「できるだけ健常な状態で帰りたい」のかでリハプログラムは大きく変わってきます。
患者のHOPEの本質をとらえることは非常に重要になります。
患者のHOPEの本質を捉える
例えば患者が「トイレに行きたい」というHOPEを伝えてきたとしましょう。
ここでキミが「じゃあ歩けるようになって一人でズボンの上げ下ろしができるようにならなきゃ!」と考えて問題点を「#歩行困難#下衣の上げ下ろし困難」と挙げてはいけません。
患者の「トイレに行きたい」という気持ちは、本当に歩けなければいけないのでしょうか?
例えば、大腿骨頸部骨折術後で荷重量が50%指示の患者の場合、1人でトイレに行くのが大変な場合もあります。
そうなると問題点として#歩行困難を挙げてしまうと、医師から荷重量100%可能の指示が出るまで#歩行困難の状況は続き、トイレにずっといけないことになります。
患者の多くは「トイレのたびにナースコールを押すのは面倒だし申し訳ない」と考えています。
とすると、わざわざ歩行獲得まで待つ必要はありません。
必然的に評価項目も歩行の評価じゃなく、車いすでトイレに行けるか?または尿器を使用し自分で処理できるか?という評価が必要になってきますよね。
患者の訴えをしっかり聞き入れ、なぜそのような訴えをしているのかを深く考えないと、バイザーに突っ込まれてしまいます。
問題点抽出はあくまで客観的に考えることが重要です。
評価結果から「なぜできないのか」を考える
患者のHOPEからどんなことを望んでいるのかを把握出来たら、評価から「なぜその動作ができないのか」を考えます。
これを「統合と解釈」といい、理学療法学生が最も苦手とする項目の1つです。
統合と解釈は自分が今までやってきた評価や情報収集を元に、問題点との紐づけをする作業。
日々感じたこと、思った事をデイリーノートに書き、それを参考に「なぜその動作ができないのか」を考えていきます。
ちょっと例を出しますね。
問題点:大腿骨頸部骨折でトイレに行けない
- 患側50%免荷
- 車いす駆動可能
- 患側疼痛(+)
- 股関節可動域制限
- 大腿周囲筋筋力低下
まだまだ上げることができるはず。
でも目の前にいる患者は1人でトイレに行きたいんですよ。
1人でトイレに行くにはどんな動作や作業が必要なのか?を考えていけば、今の問題点が浮き彫りになってくると思いますよ。
【問題点抽出の方法②】基本動作とADLを参考にする
この患者によく話を聞いた結果、「歩けなくても車いすでもいいから1人で用をたしたい」という訴えがあったとします。
すると、トイレまでの移動とトイレの移乗動作を評価しなければなりません。
動作の見方は、【動作分析できない・苦手な人向けのポイントと書き方】でくわしく説明しているのでご参照ください。
トイレまでの移動とトイレの移乗動作を評価をするとなると『車いす駆動の評価』と『移乗動作の評価』は別々に行う必要があります。
移乗動作の評価もベッド→車いすではなく車いす→トイレで評価しなければなりませんよね。
便座の高さは一般的な椅子より低い場合が多いですから。
もちろん、下衣の上げ下ろしの評価も必要ですし、トイレットペーパーに手を伸ばすリーチ動作の評価も必要かもしれません。
目的の動作が決まれば、評価項目がドンドン決まってくるのは分かりますか?
これがトップダウン方式の評価になります。
患者のHOPEから真の訴えを導き出し、その動作を確認することで必要な評価が湧き出てきます。
だから真のHOPEを知ることが大切になるんです。
基本動作とADLから機能障害を見つける
動作を実際に行って貰うと、障害像が見えてきます。
- 体幹の屈曲ができず立てない
- 方向転換で患側に荷重させすぎてしまう
- 下衣の上げ下ろしでふらつく
などの問題点が浮き彫りになります。
可能であれば、細かく精査する必要がありますよね。
- 体幹の屈曲ができず立てない→股関節の屈曲角度と痛みは?
- 方向転換で患側に荷重させすぎてしまう→荷重量はどれくらいかけてしまっている?
- 下衣の上げ下ろしでふらつく→どのタイミングで、どの方向にふらつく?
この問題点を打ち消すことのできるプログラムを立てると、それが「プログラム立案」になります。
治療プログラムの立て方
問題点抽出に対し、プログラム立案し改善を図っていきます。
問題点は先ほど上がった
- 体幹の屈曲ができず立てない
- 方向転換で患側に荷重させすぎてしまう
- 下衣の上げ下ろしでふらつく
だったとしましょう。
これに対するプログラムを組んでいきます。
- 体幹の屈曲ができず立てない→股関節ROM-ex、健側重心の立ち上がり練習、手すりを利用した立ち上がり練習
- 方向転換で患側に荷重させすぎてしまう→体重計で荷重量を意識させる、荷重させない方向転換練習
- 下衣の上げ下ろしでふらつく→立位バランス練習、動的バランス練習
これでOK。
プログラム立案なんて、問題点がしっかりと抽出できていれば全く問題なく立てることができます。
プログラム立案で悩んでいる人は、問題点抽出が出来ていません。
問題点抽出が出来ていない人は評価が出来ていません。
評価ができていないひとは患者のHOPEを理解していません。
患者のHOPEの本質に合ったプログラム立案の例題
- トイレに行きたい
歩いていかせなければ…!
と思いがちだけど、患者は本当に歩いてトイレに行きたいと思ってる?
もしかしたら、車いすでもいいからなるべく早く1人で行きたいと思っているのでは?
トイレに行きたいという欲求を叶える為に、実際にトイレ動作を確認します。
その動作の中で問題となる動作を確認しましょう。
- 体幹の屈曲ができず立てない
- 方向転換で患側に荷重させすぎてしまう
- 下衣の上げ下ろしでふらつく
という問題が確認出来たら、その問題に対してさらに分析と評価を行います。
- 体幹の屈曲ができず立てない→股関節の屈曲角度と痛みは?
- 方向転換で患側に荷重させすぎてしまう→荷重量はどれくらいかけてしまっている?
- 下衣の上げ下ろしでふらつく→どのタイミングで、どの方向にふらつく?
その結果、問題となる評価項目がいくつか出てくるはずです。
それがHOPEができない理由の根底にある問題点です。
それを改善するプログラムを立案していきましょう。
- 体幹の屈曲ができず立てない→股関節ROM-ex、健側重心の立ち上がり練習、手すりを利用した立ち上がり練習
- 方向転換で患側に荷重させすぎてしまう→体重計で荷重量を意識させる、荷重させない方向転換練習
- 下衣の上げ下ろしでふらつく→立位バランス練習、動的バランス練習
このような流れで、問題点抽出とプログラム立案を立てていきます。
治療や時間経過で患者の状態が変化したら、またHOPEが変わるかもしれません。
その場合、また最初から評価しなおします。
理学療法士の仕事は、この問題点抽出をしていく繰り返しだと考えてください。
そうやって患者の変化を確認しながら、徐々にADL拡大をし、HOPEをかなえていくことで患者のQOLも向上していくんです。
時間が足りなくて問題点抽出ができない場合の対策は「トップダウン」
「時間が足りなくて評価が終わらない…問題点が分からない…どうしたらいいの?」
そんな悩みがある方は、理学療法評価は問診や動作観察から問題点を予想する「トップダウン方式」を推奨します。
その理由は
- 真の問題点に気づきやすい
- 評価項目を絞れる
- スピーディに評価できる
という利点があるから。
ここでは、トップダウン方式の評価の方法をお伝えし、限られた時間の臨床実習で素早く・適切な問題点抽出ができるように手助けをしていきます。
【トップダウン】理学療法評価の過程
理学療法評価の過程は
- 問診
- 動作観察
- 問題点の予想
- 理学療法検査
- 問題点抽出
- 理学療法の実施
の順で流れていきます。
【step1】問診
理学療法評価で最初に行う事は「問診」です。
問診では、患者にとって何が問題なのか?を、能力障害のレベルで考えていきます。
能力障害とは
人間として正常と見なされる方法や範囲で活動していく能力のなんらかの制限や欠如のこと。
問診では、患者の症状の重症度や社会的背景を考慮し、本当に問題となっている能力障害を見つけ、抽出することが必要となります。
例えば、問診で患者が「歩きたい」という訴えをしたとします。
しかし、患者が発症直後で寝たきりだった場合、本当の能力障害は「歩行困難」ではなく「起き上がり困難」や「座位保困難」であるといえます。
ここに気づけると、評価すべきは「歩行や立位保持の評価」ではなく「起き上がり動作や座位の耐久性の評価」であると気づき、無駄な評価を減らすことが出来ます。
【step2】動作観察
問診が終わったら、次はその能力障害に関連する動作を観察します。
動作観察から「機能障害」の問題を抽出することが出来ます。
機能障害とは
心理的、生理的又は解剖的な構造又は機能のなんらかの喪失又は異常。
例えば、立ち上がり動作を評価する場合、大腿四頭筋のMMTを検査するだけでは不十分です。
体幹の動きや立ち直り反応、重心移動まで見て行かなければなりません。
このように、動作観察を正確に行うのは非常に難しいのですが、トップダウン方式の評価では「動作観察」が非常に重要になってくるので押さえておきたいポイントですね。
【step3】問題点の予想
動作観察を終えたら、その動作がなぜそうなってしまうのか?を予想します。
立ち会がり動作ができない場合、なぜ立てないのか?を考えていきます。
- 重心を前方に移動できていない?
- 大腿四頭筋の筋力低下?
- 頸部の立ち直り反応?
- バランス能力の低下?
もちろん全部かもしれません。
次にその予想が本当かどうかを確かめていきます。
【step4】理学療法検査
問題点の予想を立てた後は、その予想が正しいか否かを確認する作業に入ります。
そう、理学療法評価ですね。
立ち上がりができない問題に対し、適切な評価を実施していきます。
- 重心を前方に移動できていない?→FRTや体幹の屈曲ROM-t
- 大腿四頭筋の筋力低下?→大腿四頭筋のMMT
- 頸部の立ち直り反応?→平衡反応などの検査
- バランス能力の低下?→FRTやBBSなど
その結果を検査用紙に記載していきます。
【step5】問題点抽出
実際に検査した結果、標準(正常な反応や参考可動域、カットオフ値など)から逸脱したものを探してみてください。
これが「問題点」です。
1つかもしれませんし、複数あるかもしれませんが、全てを抽出していきます。
ここで、自分が立てた「問題点の予想」に対して検査結果で裏付けされた場合、自分の予想が正しかったことが証明されます。
証明されれば、あとはその問題点を改善させていくのみ。
【step6】理学療法の実施
問題点抽出した項目を改善させるための理学療法を実施していきます。
- FRTがカットオフ以下→座位・立位リーチ練習
- 大腿四頭筋MMT3→leg-extension
- 立ち直り反応の低下→原始反射から再構築
- BBSがカットオフ以下→減点項目の動作を練習
様々な方法があると思いますが、改善したか否かを確認するために「中間評価」は必ず実施してください。
例えば、大腿四頭筋のMMTが3から4になったにも関わらず立ち上がりができない場合、介入すべきポイントは大腿四頭筋以外かもしれません。
その都度確認することをおすすめします。
まとめ
理学療法士が問題点を抽出するには以下の流れで実施していきます。
- 問診から能力障害(動作)の問題点を探す
- 動作から機能障害(筋力や可動域など)の問題点を予想する
- 予想された問題点を評価し、裏付けを取る
- 問題点を改善するプログラムを立て、実行する
- 改善度を再評価し、動作に繋がるか確認する
問題点を予測するには、早く・正確に問題点抽出をしていかなければなりません。
正常動作と患者の動作で何が違うのか?をすばやく確認し、予測するためにはトップダウン方式の評価をすべきです。
逆に、疾患から考えられる評価を全て実施して問題点を探す「ボトムアップ方式」では問題点を予測しながら評価していく事ができないので、時間のない臨床実習の現場では不利になると言えます。
その他評価の方法や対策法はこちらの記事にまとめてありますので、ご利用ください。