末梢神経損傷は部位によって、痛みや痺れの質が変化するので非常に治療しにくい障害です。
末梢神経損傷と聞いても、ピンとこない方もいるとおもいますので、今回は上肢の末梢神経損傷について解説し、その評価法や治療法をご紹介していきます。
「大脳・中脳・小脳・脳幹・脊髄」を除いた他の神経群のこと。主に脳神経と脊髄神経に分類される。
末梢神経損傷の原因と種類
末梢神経損傷の原因は多岐にわたります。
- 骨折
- 創傷
- 引き抜き
- 絞扼
が主な原因で、最も多いのは事故による損傷です。
正中神経損傷
正中神経は上腕骨の顆上骨折などでも引き起こります。
正中神経は長い神経なので、その損傷部位によって症状が若干異なります。
①高位損傷
円回内筋より近位部での損傷です。
母指~環指の感覚障害と、手関節と指関節の屈曲障害、母指球の委縮(猿手)が起こります。
②中位損傷
円回内筋と長母指屈筋の間での損傷です。
母指~環指の感覚障害と、母指球の委縮(猿手)が起こります。
手関節の症状はあまり出ません。
③下位損傷
長母指屈筋より遠位での損傷です。
最も起こる正中神経損傷で、示指と母指の屈曲が難しくなります。
この場合、きれいなOKサインが作れなくなります。
【整形外科テスト】
- ファレンテスト
手を掌屈し、左右の甲を合わせて痺れが増悪したら陽性 - パーフェクトOテスト
母指と示指で〇を作れなければ陽性 - ティネル徴候
神経に沿って叩くと支配領域に痺れが放散する=損傷部位が分かる
尺骨神経損傷
尺骨神経は、骨折や創傷でも引き起こされますが、肘内側の圧迫によっても起こります。
①肘部管症候群(肘関節由来のもの)や、②ギョン管症候群(手関節由来の物)とも呼ばれます。
①肘部管症候群
- 前腕の尺側と小指・環指の背側の感覚障害
- 環小指の屈曲障害
- 母指球以外の手内筋の委縮
- 巧緻運動障害
- 環指・小指のMP伸展・IP屈曲(鷲手)
②ギョン管症候群
- 小指・環指の背側の感覚障害と手内筋の委縮
- 小指・環指の背側の感覚障害のみ
- 手内筋の委縮のみ
ギョン管症候群は、様々な症状が出ます。
【整形外科テスト】
- Froment(フローマン)サイン
両手の母指と示指で紙をつまみ、引っ張る時に母指の第1関節が曲がれば陽性 - ティネル徴候
神経に沿って叩くと支配領域に痺れが放散する=損傷部位が分かる
正中神経損傷と尺骨神経損傷は、手根管症候群と似た障害を呈します。
手根管症候群については、こちらの記事をご参照ください。
橈骨神経損傷
橈骨神経損傷は、骨折や圧迫などで起こります。
圧迫は、例えば腕枕を長時間した場合などでも起こります。
損傷部位が①肘よりも近位(高位損傷)②肘よりも遠位(下位損傷)によって症状が変わります。
①高位損傷
- 手関節伸展不可(下垂手)
- MP伸展不可
- IP伸展可能
- 手背の感覚障害
②下位損傷
- 手関節の伸展可能
- MP・IPの伸展不可(下垂指)
手関節が動くかどうかで、損傷部位を判断できます。
【整形外科テスト】
- 下垂手・下垂指の視診
- ティネル徴候
神経に沿って叩くと支配領域に痺れが放散する=損傷部位が分かる
末梢神経損傷の治療
関節可動域練習
末梢神経損傷によって、障害される関節が異なるのはすでに説明済みです。
- 正中神経:示指と母指の屈曲が困難
- 尺骨神経:環指・小指のMP伸展・IP屈曲してしまう
- 橈骨神経:手関節の背屈困難
これに則って、ROMエクササイズを実施します。
- 正中神経:示指と母指の屈曲運動
- 尺骨神経:環指・小指のMP屈曲・IP伸展運動
- 橈骨神経:手関節の背屈運動
つまり、拘縮を起こさないようにしてあげる必要があります。
必要であれば、装具を使っても良いと思います。
主に橈骨神経損傷の下垂手に対しては、コックアップスプリントが使われます。
筋力強化訓練
筋力強化は、主に弱化しやすい筋を強化します。
- 正中神経:母指球筋・円回内筋・長母指屈筋
- 尺骨神経:尺側手根屈筋・母指内転筋・手内筋
- 橈骨神経:回外筋・長短橈側手根伸筋・指伸筋
支配筋を調べて、その筋を動かすと良いです。
ただし、初期は安静にしておくのも重要なので運動負荷に気をつけましょう。
バイオフィードバック
筋の運動や、感覚などを道具や機器等を用いて検出し、それを視聴覚情報に変換して、身体的な状態を認知させ、それらに反応する能力を養い学習する方法。
簡単に言うと、筋が収縮したことを患者に伝え、それを何度も反復して常習化させるリハビリです。
本来なら、筋電図などを用いて実施するものですが、そんなものはないので我々の判断で患者に伝えます。
【運動のフィードバック】
- あなたが目的の筋腹に触れる
- 患者に、目的の筋を動かすように指示する
- 筋腹が膨隆すれば、患者に「いま動いています」と伝える
- 筋が動かなければやり直し
- 繰り返す
以上です。
これをするには、正確な触診と患者のやる気と集中力が必要です。
感覚のフィードバック
- 患者の目を覆い、感覚障害部位に刺激を与え、患者にその感覚(痛い・熱い・冷たいなど)を答えさせる
- 正しければ、違う感覚を与える
- 間違っていれば、目で確認しながら刺激を与え、1に戻る
- 慣れてきたら、刺激を弱めていく
- 繰り返す
これを繰り返すことで、習熟させます。
簡単に言うと、意識的に動かしていることを、無意識で行えるようにすることがバイオフィードバックの目的となります。
反復練習を重ね、わざわざ脳から命令を出さなくても行動できるようにする。
我々も、無意識で話しながらでも自転車に乗ったり、スマホの操作をできるますよね。
これは多くの反復練習による習熟のたまもので、患者の運動・感覚障害このレベルにしたいんです。
電気刺激療法
治療的電気刺激therapeutic electrical stimulation (TES)と呼ばれるものです。
麻痺している筋に電気を流して筋収縮を促すことで、筋の再教育を目指します。
神経・筋再教育訓練、筋力強化訓練、関節可動域訓練やバイオフィードバック療法などとの併用によって、より相乗的な訓練効果が期待できます。
禁忌に十分に注意して実施しましょう。
温熱療法
温熱療法による神経の再生促進に期待できると言われています。
ホットパックよりも、もっと深部を温められる超音波や極超短波(マイクロ)が有効と言われています。
当てるポイントは損傷している神経なので、しっかりとチネル徴候で損傷部位を確認してから実施したいですね。
まとめ:末梢神経損傷のリハビリスタンダードプラン
末梢神経損傷のリハビリプランは、個人に合わせた継続的なプログラムが必要です。
リハプランは、筋力トレーニング、可動域練習、筋バランスと協調性の向上、神経伝達の刺激、そして痛み管理が含まれます。
理想的なのは、神経回復の初期段階からリハビリをし、損傷の程度に合わせて調整し、リハビリテーションの過程で、症状の改善や回復を評価しておくことも重要です。
リハビリテーションには時間がかかることがありますが、継続的な努力と忍耐が、末梢神経損傷からの回復につながります。