各疾患には日本理学療法士協会が提唱する「理学療法ガイドライン」というものがあります。
過去の様々な研究や文献、論文から効果の有無や信頼性の高さを分類し、ガイドラインとして多くの理学療法士が作成しているもので、我々も臨床介入の参考にしています。
学生も、エビデンスのある介入をしていく必要があるので、ここでは分かりやすくエビデンスのあるもの(信頼性が高いとされているもの)をピックアップし、記載していきます。
教科書に載っていることも重要ですが、このガイドラインも重要ですのでぜひ臨床参加研修(臨床実習)の参考にしてください。
今回は脳卒中についてです。
脳の血管が破れるか詰まるかして、脳に血液が届かなくなり、脳の神経細胞が障害される病気。より早期(発症して4.5時間以内が目安)に治療を開始すると後遺症が軽くなることがある、救急疾患。原因によって、1)脳梗塞(脳の血管が詰まる)、2)脳出血(血管が破れる)、3)くも膜下出血(動脈瘤が破れる)、4)一過性脳虚血発作(TIA)(脳梗塞の症状が短時間で消失する)の4つに分類される。
死亡率第3位。意識障害、運動麻痺、感覚障害、言語障害や認知・記憶・遂行障害などの高次脳機能障害、嚥下障害などさまざまな症状がみられ、日常生活活動の制限や生活の質の低下に直結する
【参考書】
脳卒中の初回評価
脳卒中の患者を見る場合、最初に以下の項目に着目します。
【脳卒中の代表的な症状】
- 頭痛・めまい
突然の激しい頭痛があった→クモ膜下出血を疑う
回転性のめまいの有無 - 意識の確認
JCS、GCSによる確認
反応の鈍さ、会話の繋がり、暴れる - 力の異常(筋力低下ではない)
ろれつが回るか
顔面を含む半身の脱力はあるか(口角からの流延の有無、食べこぼし、巧緻性、書字、足の躓き、引きずり、膝崩れなど) - 感覚の異常
顔面を含む表在感覚の異常
関節位置覚の異常
温痛覚の異常 - 言語の異常
うまく言葉にできない、書けない、読めない
聞いた言葉や文章が理解できない - 目の異常
視野の欠損
重複視
眼振 - バランスの異常
ふらつき、静止していられない
後方転落、突進歩行 - その他(一過性虚血に多い)
突然の記憶障害
けいれん発作
脳卒中の総合評価
脳卒中の総合的評価をするスケールを紹介します。
- 脳卒中機能障害評価セット(stroke impairment assessment set: SIAS)
- National Institutes of Health Stroke Scale(NIHSS)
- フューゲル-マイヤー運動機能評価(Fugl-Meyer motor assessment)
- 国際生活機能分類(international classification of functioning disability and health: ICF)
- 脳卒中重症度スケール(Japan stroke scale: JSS)
脳卒中機能障害評価セット(stroke impairment assessment set: SIAS)
SIAS(さいあす)とは、Stroke Impairment Assessment Set(脳卒中機能障害評価法)の頭文字をとったもので、脳卒中の機能障害を定量化するための総合評価セットです。
9種類の機能障害に分類される22項目からなり、各項目とも3あるいは5点満点で評価します。
最大得点は76点
SIASを学ぶには以下の書籍が有用。
学生の理解が難しいFIMに関しても詳しく載っているので脳卒中領域に立ち向かっている学生の強い味方になると思います。
解説動画はこちら
脳卒中の運動評価
脳卒中の運動機能の評価を紹介します。
運動機能評価スケール(motor assessment scale: MAS)
脳卒中は筋力より機能の方が重要視されます。
運動機能評価スケール(motor assessment scale: MAS)は「寝返り・起き上がり・座位保持・起立・歩行」の5つの基本動作と3つの上肢機能の計8項目を評価します。
各項目は6段階に分けられていて、患者の動作回復にそった内容になっています。検査時間は慣れてくると10〜15分程度。
ただ実習生が使う事はほとんどないとおもいますが、エビデンスは高いです。
ブルンストローム ステージ(Brunnstrom stage)
ブルンストローム ステージは脳卒中片麻痺患者の運動機能評価として定着しているので、まずはここから評価するのもあり。
ブルンストローム検査では難しい場合、上田の12段階評価を活用する場合もあります。
簡単にブルンストロームの評価方法を載せますので参考にしてください。
上肢stage
- 随意運動なし、まったく動かない
- わずかに筋収縮が出現
連合反応の出現
腱反射が徐々に出てくる - 痙性が著明で共同運動が強く出る
- 分離運動が出現する
1)手を腰の後ろに動かせる
2)上肢を前方水平位に挙げられる
3)肘90度屈曲位で前腕の回内外ができる - 共同運動から独立して動かせる
1)上肢を外転し水平にできる
2)上肢を屈曲して頭の上まで伸ばせる(バンザイ)
3)前方に手を伸ばした状態で回内外ができる - ほとんど自由に動かせる
下肢stage
- 随意運動なし、まったく動かない
- わずかに筋収縮が出現
連合反応の出現
腱反射が徐々に出てくる - 痙性が著明で共同運動が強く出る
- 分離運動が出現する
1)端坐位で足を床につけ、滑らせながら膝の屈曲が90度可能
2)端坐位で足を床につけ、足関節の背屈が可能 - 共同運動から独立して動かせる
1)立位で何かにつかまり、股関節中間位で膝を90度屈曲することが出来る
2)立位で観測を前に出し、膝を伸展したまま足の底背屈運動が出来る - ほとんど自由に動かせる
1)立位で股関節外転ができる
2)端坐位で股関節の内外旋運動ができる
手指stage
- 弛緩、全く動かない
- 指の運動がわずかに可能
- 指の集団屈曲が可能だが伸展ができない
- 横ツマミが可能
指の伸展が出始める - 対立ツマミ、円柱掴み、玉にぎりができる
指の集団伸展が可能 - 全てのツマミが可能
1本ずつ指を開くことができる
脳卒中の筋力評価
- 運動機能指標(motricity index)
- MMT(Manual Muscle Test)
徒手筋力テスト(Manual Muscle Test;MMT)
脳卒中患者において、MMTはそこまで重要視されません。
なぜなら、分離が出来ていない状態でMMTを実施するのは困難であるから。
どちらかというとハンドヘルドダイナモメーターによる筋力測定のほうが有用。
片麻痺患者の筋力評価は、粗大筋力が評価できればいいと思います。
足が地力で持ち上がれば粗大筋力は3以上という事になりますよね。
脳卒中の筋緊張・可動性の評価
アシュワース スケール( Ashworth scale)
アシュワース スケールは筋緊張検査として用いられます。
見た目、動かした時の抵抗など様々な視点から観察します。
筋緊張は姿勢やバランスに直結するので、ぜひ評価しておいていただきたいですね。
関節可動域(Range of motion: ROM)
可動性の評価としては関節可動域検査が最も広く用いられており、エビデンスも高い。
基本的には左右差を評価します。
麻痺の程度によっては参考可動域以上の可動性がある場合もあるので注意。
脳卒中と関節拘縮は密な関係にあるので、初回から可動域を測定し、その可動域を維持することがメチャクチャ重要になります。
特に手指の屈曲拘縮、足関節の内反尖足の予防は超重要ですよ!
脳卒中の歩行の評価
- エモリー機能的歩行能力評価(Emory functional ambulation profile: E-FAP)
- 歩行障害質問票(walking impairment questionnaire: WIQ)
- timed “up & go” test(TUG)
- 10 m 歩行テスト(ten-meter walking test)
Timed “up & go” test(TUG)
慢性期脳卒中患者と健康な高齢者で TUG の再現性が確認されており、非常に有用な検査であることが示唆されています。
13.5秒以上で転倒リスクがあるとされていますが、指標の1つとしてください。
脳卒中患者に関しては、13.5秒以上かかっても丁寧に歩けていれば特に問題ありません。
突進歩行や小刻み歩行、ステッピングの消失などがなければ大丈夫だと思います。
10 m 歩行テスト(ten-meter walking test)
早期脳卒中の片麻痺患者の10m歩行テストは再現性も高く、感度も高い評価方法であるとされています。
- 24.6秒:屋内歩行レベル
- 11.6秒:屋外歩行レベル
カットオフ値はあくまで参考程度とし、いかに安定して長い距離を歩くことができるか考える必要があります。
ゆっくりでも屋外歩いても問題ないですよ。
歩行者信号の有無だけ確認は忘れずに!
脳卒中の姿勢・バランス評価
バーグ バランス スケール(Berg balance scale)
スコアから複数の転倒を予測できること、脳卒中の機能あるいは運動遂行能力と強い関係がみられることがBBSが推奨される理由です。
点数の低い項目=その動作で転倒しやすいということなので、その動作が日常生活に潜んでいないか観察しましょう。
ただし、実施する前に十分なバランス評価をしてから行いましょう。
危ないですから。
機能的リーチテスト(functional reach test: FRT)
簡単かつ再現性の高いテストとしてFRTもエビデンスレベルは高いです。
立位・座位で検査し、前方・左右と評価することでどちらに転倒しやすいか、またはバランスが良いか確認することができます。
これもぜひ評価しておきたい項目のひとつですね。
脳卒中の高次脳機能評価
脳卒中患者は高次脳機能評価もしておかないといけません。
普段の何気ない会話や行動からどんな障害があるのか当たりをつけて実施していきましょう。
時計描写テスト(clock drawing test)
半側空間失認の有無や、理解力、表出力、失行などの評価に使えます。
時計描写テストは認知機能の低下を判定するために有益なテストであり、これをするだけでどんな障害を持っているのか予想することができます。
- 時計の半分を見落とす→空間失認
- 時計を書くことが出来ない→失認
- 意味を理解することができない→認知機能低下や失語
- 全く別の事をしだす→失行
- 興味を示さない、周囲をきょろきょろしだす→注意障害
このテストだけで多くの事が分かるのでおすすめ。
その他にも
- 線分二等分テスト(Line bisection test)
- 文字抹消テスト(Letter cancelletion test)
も高次脳機能障害を判定するのに役立ちます。
超おすすめ。
簡易認知機能検査(mini-mental state examination: MMSE)
認知機能評価としては絶対に抑えておきたいところ。
今はHDS-RよりMMSEのほうが主体です。
脳卒中のADL評価
バーセル インデックス(Barthel index: BI)
できるADLを評価するBIですが、意外と信頼性が高くエビデンスも良いです。
FIMだと3点と4点で悩む学生が多いですが、BIであればそこまで悩むこともないので、評価者による点数の差が少ないのも特徴です。
自己評価による BI は FIM の運動機能項目との相関があり、また再現性も確認されたので臨床における有用性があるとされています。
つまり、BIが上がる=FIMも上がるという事。
機能的自立度評価(functional independence measure: FIM)
FIMの信頼性は高い。
FIM 得点は全般的生活満足度予測に寄与し、高い精度で介助(83%の正確性)、監視(82%)時間、またどんな援助が必要か(78%)を予測できるのでFIM の精度は高いとされています。
脳卒中患者のADL評価にはやはりFIMは必須。
脳卒中の治療法、リハビリの流れ
脳卒中患者には早期リハビリテーションが推奨されています。
評価に時間をかけている暇はなく、評価しつつリハビリを実施していかなければなりません。
ある文献には、「発症14日以内の中大脳動脈閉塞による重度麻痺の患者に対し、プレッシャースプリントで上下肢を動かさないでプログラムを進めた群よりも、下肢に重点を置いた群はADLが向上し、上肢に重点を置いた群は巧緻性が有意に改善した」とされています。
早期理学療法によって予後が変わってくる可能性が十分に考えられます。
脳卒中の理学療法の基本
- 早期から運動を多く行うと早期離床につながる
- 能力改善は早期介入と関連するが、治療機関とは関連しない
- 早期介入群の入院期間は明らかに短くなる
急性期(発症後14日以内)の訓練
- 早期離床
- 早期端坐位
- 早期可動域エクササイズ
- ポジショニングによる良肢位
- バイタルチェック
基本的には起居動作の訓練から入ります。
寝返り→起き上がり→端坐位の一連の動作で、どこができないのかを観察します。
その都度、体調の変化がないか確認してください。
その後ADLの訓練に移ります。
移乗動作→立ち上がり→歩行の順に動作を見て行きましょう。
急性期は機能向上より、バイタルの安定が求められます。
焦らずじっくりと1つ1つ出来ることを増やしていき、今後のリハビリに繋げていく必要があります。
実際に学生が行う治療は以下のものが多いです。
- ROM-ex
- ストレッチ
- 自動運動・他動運動
- ポジショニング
- 起き上がり訓練
- 座位保持訓練
亜急性期(発症後15日~退院まで)の訓練
- 30分以上車いすに乗れれば訓練室へ
- 麻痺側の可動域訓練
硬くなるのは速い!毎日実施、自分でもやってもらうのが大事! - 麻痺側の随意運動獲得訓練
毎日、手足を動かす努力をする。動かなくても命令を出すのが大事! - 麻痺側への刺激入れ
さする、叩く、温めるなど求心性の刺激を入れ続ける
特に足底(母指球・踵)への刺激入れは大事!ここの感覚向上で歩行安定性に繋がる - 立ち上がり訓練
起居動作の基盤となるので超重要
後方重心になりやすいので前方にテーブルを置いて手で支えてスクワットなど
手すりを引っ張らないように、押すイメージ - 起居動作訓練
自分で起きれるように、移乗動作まで - 歩行訓練
平行棒→4点杖→1本杖→F/Hへ
装具も検討。短下肢装具が有効な場合が多い。
同時に認知機能訓練なども取り入れていきます。
退院後の事も考えていきましょう。
患者が帰れるかどうか?はリハビリの進行具合よりも家族の協力の有無の方が重要です。
慢性期(退院後)の訓練
- 家屋構造の調整
レンタル道具、家屋改修など - セルフエクササイズの指導
特にストレッチと自動運動は重要 - 介護保険の活用
訪問リハビリ、訪問看護
デイケア・デイサービス・ヘルパーなど - 体調管理
塩分の少ない食事、水分摂取、毎日の血圧測定など - QOLを高める
患者と家族が良い関係を保ち意欲的に生活しているかどうか
介護が負担になっていないか
脳卒中の姿勢と歩行に効果的な理学療法
- 早期歩行練習の実施
:機能的電気刺激を使用しての歩行
:床上歩行よりトレッドミル歩行が有用
:歩行治療にかける時間を長くすれば歩行改善が見込める - 回復期の姿勢・歩行練習
:部分免荷歩行の反復歩行
:運動イメージの構築
:自転車エルゴメーター - 装具療法
:AFOの使用で荷重量の増大が図れる
:アームスリングの使用
脳卒中に効果的な電気刺激療法およびその他の物理療法
- 中等度の上肢麻痺に対する経皮的電気 刺激(transcutaneous electrical nerve stimulation: TENS)
- 運動障害に対する機能的電気刺激(functional electrical stimulation: FES)で歩行改善を認める
脳卒中に効果的な持続的筋伸張運動(ストレッチ)
- 効果を認めない文献が多い
脳卒中の運動障害に効果的な理学療法
- バイオフィードバック療法
- 促通反復療法
- CI 療法(constraint-induced movement therapy)
- トレッドミル歩行練習
脳卒中の半側空間無視・注意障害・遂行機能障害に効果的な理学療法
- プリズム眼鏡の使用
- 認知リハビリテーション
脳卒中の肩関節障害に効果的な理学療法
- 温熱療法、寒冷療法の実施
- 慎重なハンドリング治療の実施
- 滑車運動は避ける
脳卒中の体力低下に効果的な理学療法
- 1日の歩数を増やしていく
- トレッドミル歩行
- 自転車エルゴメーター
脳卒中で考えるべき在宅理学療法
- 介護者のメンタルケア
- 慢性期でも効果を認める
- 排泄行為が最も介護負担となっている
脳卒中のリハビリまとめ
脳卒中のアプローチといえばボバースアプローチですが、ここでは紹介していません。
学生には難易度が高すぎますからね。
いままで聞いたこともない評価項目も多く戸惑うかもしれませんが、こんなものもあるんだなと参考にして頂けると幸いです。
(もちろん、ぼくも知らなかったことも多いです…。)
脳卒中は身体機能の改善だけでなく、在宅復帰へのアプローチが必須となりますが、在宅復帰へ向けた文献や論文はものすごく少ないです(ボバース法や川平法などの文献はいっぱいある)
脳卒中後の生活にも着目し、介入を継続し、いつか皆さんが論文を書いていただけると理学療法の発展につながると思います!
【参考】
- 公益社団法人:日本理学療法士協会
- 一般社団法人:日本脳卒中学会
- 獨協医科大学
- リハ学
- Study channel
- 社会福祉法人大阪府障害者福祉事業団
- リハビリで使う評価表
- 理学療法とマイル
- 一般社団法人:日本脈管学会
- 理学療法士の残業ゼロ生活
- st-medica
- Wikipedia
- 公益財団法人パブリックヘルスリサーチセンター
- 高田眼鏡店
脳卒中は一生続く障害が残ることが多いので、退院後のケアも重要です。
再発予防、QOLの向上をお忘れなく!
レジュメも書けるようにしておきましょうね。
がんばれ!